『コンフィデンスマンJP プリンセス編』 Ⓒ2020「コンフィデンスマンJP」製作委員会

凄く二枚目なのに、人生の苦渋やエゴを感じさせるスタア性格俳優になってくれるのではないか

この後もたとえば行定勲監督の異色作『真夜中の五分前』に主演したかと思えば、樋口真嗣監督の娯楽大作『進撃の巨人』に主演するなど、こうしたチャレンジの幅を常に感じさせ、さらに『キンキーブーツ』や『罪と罰』など舞台でも果敢な芝居を見せていた。

こうした三浦春馬の試みは(いま彼が子役出身と知って得心がいくのだが)若さを勢いまかせに噴出させているというよりも、はじめに書いたように一種老成した据わりのよさをもって行われるのだった。

ただ三浦春馬の興味深いところは、その“老成”が決して後ろ向きのおとなしさではなく、むしろこれから長年にわたって、本当に老熟するまで、じわじわといいものを見せ続けてくれるのではないか(ひとときの旬に散る花火ではなく)という“伸びしろ”に感じられることだった。

多くの俳優が、その魅力の源泉を“若さ”に負うてうるなかにあって、これはひじょうに独特なものだという気がした。

NHKで3年目に入っていた『世界はほしいモノにあふれてる』という人気番組で、三浦春馬は司会をつとめていたが、その司会としての三浦のたたずまいがとても好感が持てたので、ついつい毎回チャンネルを合わせていた。

そのいつも肩の力をぬいて、素朴にゆったり構えている三浦の“素”の姿勢が、くだんの“伸びしろ”の根拠なのかもしれない、と勝手に思っていた。

三浦春馬が年齢を重ねたら、成瀬巳喜男の映画に出てくる上原謙のような、凄く二枚目なのに妙にあれこれ人生の苦渋や迷いやエゴを感じさせるスタア性格俳優になってくれるのではないかとずっと考えていたのだが、その妄想もこれでかなわなくなった。

三浦春馬の死は、疫病禍のただなかにおける深い黒点のような記憶として、人々を憂鬱にいざない続けることだろう。どんな苦境にあっても、俳優は人に夢を売ってナンボであろうに。だから、まだおいそれと合掌する気になどなれない。

ぴあアプリ連載「銀幕の個性派」第54回から転載

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『コンフィデンスマンJP プリンセス編』 Ⓒ2020「コンフィデンスマンJP」製作委員会

『コンフィデンスマンJP プリンセス編』7月23日全国公開

ひぐち・なおふみ:1962年生まれ。映画評論家/映画監督。著書に『大島渚のすべて』『黒澤明の映画術』『実相寺昭雄 才気の伽藍』『グッドモーニング、ゴジラ 監督本多猪四郎と撮影所の時代』『「砂の器」と「日本沈没」70年代日本の超大作映画』『ロマンポルノと実録やくざ映画』『「昭和」の子役 もうひとつの日本映画史』『有馬稲子 わが愛と残酷の映画史』『映画のキャッチコピー学』ほか。監督作に『インターミッション』。新作『葬式の名人』がDVD・配信リリース。