舞台から放たれる、力強く生きる人々の命の輝き
物語は空爆の“その日”に向かって進むけれど、舞台から放たれるのは、その直前まで力強く生きる人々の命の輝きである。
何も知らなかったお嬢さんのサラが外の世界を知り、戸惑い、恐れ、傷つき、それでも希望を育もうと未来を見つめる。上白石萌歌の清廉なたたずまい、真実をとらえようとする瞳の強さがまぶしい。モチーフとして度々語られる平和と自由の象徴、“聖なる樫の樹”に重なるように芯太く、成熟していくサラを体現する、そのひたむきな熱量に引き込まれる。
サラとイグナシオがそれぞれの“血の運命(さだめ)”を明かし、魂を共鳴させてお互いを求め合う場面では浄化の光を感じ、その瑞々しい二人の対話の後に、イグナシオの正体を知る戦慄が訪れる。難役に挑んだ中山の冷静な情熱、運命への諦観をにじませた憂いの表情が印象を残す。さらに、マリアの自尊心が恐ろしい決断へと走るさまの震撼。キムラ緑子が見せた哀れな狂気に息を飲んだ。
胸騒ぎの深紅の緞帳が“その日”を無残に表し、幕は閉じた。暗澹たる空気の中でさまざまな想念が浮かび上がってくる。真実を知り、怒ることの大切さ、無言でいることの罪……。
栗山は以前にも、「歴史の声を聞け」と語っていた。歴史の声に耳を傾け、今を生きる私たちへの課題を受け止め、未来に向けて動き出すこと。明日どうなるかわからないコロナ禍の今こそ、そうした演劇の力をより深く感じ取れるように思う。
『ゲルニカ』はPARCO劇場での公演のあと、京都、新潟、豊橋、北九州へと巡る予定。どうか無事に、この素晴らしい舞台が、歴史の声が各地の劇場に響き渡りますように。
作品情報
『ゲルニカ』
日程:9月4日(金)~9月27日(日)
会場:PARCO劇場
料金:9,800円(全席指定・税込)
作:長田育恵
演出:栗山民也
出演:上白石萌歌、中山優馬、勝地 涼、早霧せいな、玉置玲央、松島庄汰、林田一高、後藤剛範、谷川昭一朗、石村みか、谷田 歩、キムラ緑子