作品に真摯に向き合う島崎さんの演技論
――理央を演じる上で「人間的な部分を大事にする芝居」を求められたとおっしゃっていましたよね?
島﨑: 黒柳(トシマサ)監督が最初に収録をする際におっしゃっていたことなのですが、アニメの登場人物がその場にいて生活をしている感じをそのまま描きたいということは、僕も常々思っていたことなんです。
理央のようにずっと王子様のイメージというわけじゃなくて、思春期の少年として多面的なところがあって、ちょっとしたことで変化が生まれていく。
思春期なら当たり前に経験するような出来事でも、人は大きく変わっていくんですよね。
そんな人間らしい理央の情報は、収録前に台本や原作から読み込んで想像を広げつつ肉付けしていましたが、実際にお芝居をするときはそこを意識しすぎずに、その場の掛け合いによる空気感で出たものを重視していました。
――なるほど! アフレコ現場の雰囲気はいかがでしたか?
島﨑: 由奈役の鈴木(毬花)さんが主演でアニメのアフレコをするのが初めてだったんです。
リラックスできる関係性でより良いパフォーマンスができるように、(朱里役の) 潘さんはお姉さんみたいでしたね(笑)。
アットホームな現場の中で、鈴木さんのお芝居も由奈ちゃんのように真っ直ぐで、掛け合いをしていく中で自分でも思ってもいなかったニュアンスが出てきたり。
――作品にも存分にその雰囲気が活きていると感じます。
島﨑:『ふりふら』の収録は役者全員のスケジュールが合わなくても、掛け合いのシーンでは必ず相手の誰かがいるようにという撮り方をしてくれたんです。
そのおかげで、さっき言ったようなその場の掛け合いによる空気感が出せるお芝居ができたと思います。
事前にインプットしてすぐ対応できるようにはしておきますが、決めつけた芝居ではなく、掛け合いの中で作品の世界を声の芝居で作っていけましたね。
――掛け合いによる変化とは、具体的にはどのような変化になるのでしょうか?
島﨑:たとえばお祭りのシーンでも、周りがうるさいと近くにいても大きな声でしゃべるじゃないですか。
逆に普通のトーンで話し始めると、意外と静かな場所なんだということになって、最初の一言でその後の会話の距離感が変わるんです。
もともと台本を読んで自分の中で(相手との距離が)5メートルくらいかなと思って収録に臨んだとしても、相手が3メートルの距離で話してきたら3メートルの距離感の会話を返すみたいな。
――非常によくわかります。『ふりふら』は実写版もアニメ映画版に先立って公開されていますが、仮に島崎さんが実写で理央を演じるとしても、そのようなアプローチをしますか?
島﨑:僕は舞台の経験はありますが、実写はアングルやカット割りも存在しますし、そこを意識しないといけないので難しいですね……。
(実写版で理央を演じた)北村匠海さんと話しても根本にある役の捉え方は近い部分があると思ったのですが、表現しないといけないことや訓練しないといけないことはアニメとは別だと思うので、すんなり実写でも演じられるとは思わないです。
――演じる上でも表現方法の違いを考える部分が大きいということですね。
島﨑:そうだと思います。逆に実写はどんな空間なのかは分かっているし、表情も相手の顔を見ればすぐにわかるじゃないですか。
アニメの場合は、絵という指針がありますが相手の声を聞いてリアルタイムでその場の環境が作られていく。
上を向いてしゃべっているのか、下を向いているのかといった細かい1つ1つの動きや感情の動きを感じ取って丁寧に実感を伴って演じられるかどうかは、とても大事だと思うんです。
そうしないと、ちゃんとそこに生きているという生活感が嘘っぽくて何となくのものになってしまう。
――そういったお芝居のアプローチも、黒柳監督の方向性と島崎さんの方向性が合致した結果なんですね。
島﨑:材料を集めて芯の部分を捉えたら(演じる人物として)普通にしゃべるというのが僕の理想なんです。
必要な情報を入れて必要なことを考えて、それをそのまま演じるのではなくて、あとはマイクの前に立って掛け合いの中で感じたものを演じる。
10年くらい声優をやってきて、この『ふりふら』という作品あたりから本当の意味でそんな理想に対して、少しずつでも近づいていけたらと思えるようになりました。
――素晴らしいですね! ほかの作品でもアプローチの仕方や演技の核は変わらないんですか?
島﨑:作品ごとに真摯に向き合うことで、その作品に寄り添ったやり方に変わっていくものだと思うんですよ。
子ども向けの作品だからダイナミックにわかりやすく演じようとか、怒っているんだという感情を伝わりやすく演じようとか。
そういう塩梅は1つ1つの作品の役ごとに向き合わないと全部同じ芝居になってしまうので。
ちょっと雑な言い方をしてしまうと、音響スタッフの方に声を調整してもらったり作品に関わる素晴らしいスタッフのおかげで絵や音楽と1つになると、何となく演じたとしても(作品として)見られるものにはなるんです。
だからこそ皆さんの力に頼るだけじゃなくて、ちゃんと自分もいいものを作るための一員として、丁寧に演じていきたいと思うんですよ。
1つ1つの役に向き合っていくと、設定的には似た役でも全く違う人間になるから面白いですし、『ふりふら』のように掛け合いで生まれていく世界もある。
だからこそ、よりよい作品を作るためにこれからもコミュニケーションを大事にして、今まで自分が受け取ってきたものを繋いでいければと思っています。
役者として真摯に作品に向き合う島崎さんのたくさんの一面が発揮されたアニメ映画版『ふりふら』。
ぜひ劇場で等身大の少年少女たちの物語を体感してみてください!