左:《鬼の行水》日本民藝館蔵 (旧蔵者歴:渡辺霞亭→山村耕花→大原孫三郎→大原總一郎→柳宗悦)

各作品には旧蔵者歴が記されているので、誰から誰の手に渡ったのかをチェックしたり、表具のない状態で売られていた大津絵に、所有者がどんな表具を仕立てたのかに注目すると面白い。

例えば、5名の旧蔵者歴が記録されている《鬼の行水》は、渡辺霞亭所有の名品として知られ、彼の死後の売立で柳宗悦が入札したところ、さらなる高値で山村耕花が入手。

山村が亡くなる際の売立では、柳の依頼により大原美術館の創設者で実業家の大原孫三郎が入手し、後年、大原家より柳が初代館長を務めた日本民藝館に寄贈されたという由来を持つ。

また、柳が旧蔵していた《長刀弁慶》《槍持奴》などは、丹波布による仕立てに、軸首にはバーナード・リーチ、あるいは、河井寛次郎による陶軸を用いるという凝った表装になっている。

さらに、北大路魯山人や棟方志功、白洲正子が旧蔵した大津絵もあり、彼らの審美眼や好みを想像するのも楽しい。

民衆が生み出した無銘の絵画、大津絵。近代日本の名だたる目利きたちが大切に愛でてきた、名品ぞろいの約150点を堪能してほしい。

【開催情報】
もうひとつの江戸絵画 大津絵』11月8日(日)まで東京ステーションギャラリーにて開催