撮影:岩田えり

「お正月に帰る決まりとかもない?」(小松)

「ないかなぁ。仕事の関係もあって、おじいちゃんのところに行くことも少なくなってきたし」(北村)

「そっか。あ、でもお雑煮はあるでしょ?」(小松)

「お雑煮…? お雑煮…?(と考え込む)」(北村)

「うちのお雑煮はこの味だなとか。塩味とか、醤油系だなとか、味噌とか」(小松)

「お雑煮がちゃんと出た記憶がないんだよね」(北村)

「そっか。確かに出ないところは出ないもんね」(小松)

「うちは結構自由というか。この世界に入るときも『嫌になったらいつ辞めてもいいし』という感じだったし。もちろん怒られることはたくさんあるけど。だから、あんまり決まった習慣みたいなのがなくて。あ、でも、お正月におしるこは出る!」(北村)

「おしるこなんだ! 本当、その家その家で全然違って面白いね」(小松)

撮影:岩田えり

泣きすぎて顔の感覚がなくなりました(笑)

弾むようにポンポンと言葉を交わし合うふたり。そんな微笑ましいやりとりからは想像もできないシーンが、映画にはある。

それが、兄・一(吉沢亮)の恋人・矢嶋(水谷果穂)からの手紙を、小松演じる美貴が読み上げるシーンだ。北村演じる次男・薫が感情を爆発させる数少ないシーンでもある。

「普段お芝居をしているときって、どこかで芝居している自分を引いたところで見ている自分がいたりするんですけど、『さくら』に関してはその逆で、役に入り込んでいる瞬間がたくさんあった。美貴とのシーンもそのひとつです。あのシーンは本当に苦しかった」(北村)

「私も難しくて、めちゃくちゃ悩んだところです。薫の部屋に入ってくるのも、沈んで入ってくるのか普通に入ってくるのか、いろんな道があったし。手紙を読むのも、感情的に読むのかフラットに読むのか、便箋を持つのか持たないのか、細かい選択肢がいろいろありすぎて、撮影に入るまでいろいろ考えました。

でも、ここは考えてやるシーンじゃないなと思って。その場で出てきたものに任せるしかないと思ってやってみたんですけど、そしたら最初のドライ(リハーサル)でめちゃくちゃ感情が溢れ出ちゃって」(小松)

「横で見ていても全開で泣いていて、大丈夫かなって思った。で、僕もそれを受けるから、ドライなのに全開で泣いてて、自分でも大丈夫かって思った(笑)」(北村)

撮影:岩田えり

「あはは。でも、なんか、出し切った感があった。台本上では薫が泣くシーンだったから、途中でやばいなと思って、どうしようか葛藤もありつつ、もうどうにでもなれじゃないけど、とりあえずやってみようという感じで最後までやりきりました。

今でもあれが正解かどうかはわからない。今までやってきた中でいちばん難しいシーンでした」(小松)

「薫という役は、気持ちを受け取る場面がすごく多くて。久々に受け芝居をがっつりやれた楽しさがありました。受け芝居って相手の芝居ですごく変わる。

今回はみなさんのおかげで気持ちよく涙を流せた場面が何度もあって。クライマックスの車のシーンとかも、泣きすぎて顔の感覚がなくなりました(笑)。でもそれぐらいすごい感情にさせてもらえたことが、ありがたかったですね」(北村)

撮影:岩田えり
撮影:岩田えり

この映画を今年公開できた意味はあると思う

兄・一に特別な感情を寄せる美貴は、時に周囲が困惑するような行動に出る。決して受け入れやすいとは言いがたいキャラクターだ。

「私も3人兄妹で、お兄ちゃんがふたりいるので、100%わからないでもないところがあって。お兄ちゃんが家に彼女を連れてきたときとか、今まで見せたことのないお兄ちゃんの行動や表情に『あなた誰』みたいな気持ちになったこともあったし(笑)」(小松)

「あるんだ?」(北村)

「あるある。『へえ、そういう顔するんだ』ってすごく複雑な気持ちになるというか。ずっと今まで自分と遊んでくれていたのに、彼女ができた途端、その人とばっかり遊びに行って家に帰ってこないということもリアルにあったから、美貴の気持ちはわからなくはないんです」(小松)

そう共感を寄せた上で、小松は美貴についてこう話す。

「ただ、美貴はお兄ちゃんへの気持ちが溢れ出すぎている。美貴の持つ狂気的な愛は、たぶん見た人からすると『この子は何なんだろう?』ってなると思うんですね。

でも私は得体の知れない子でいいやと捉えていて。そんな美貴にかき乱されることで、家族も改めて思うものがある。私自身も、やっていてよくわからないところもあれば、演じてみることで発見する部分もあって、とても面白い役でした」(小松)

撮影:岩田えり

そして、北村演じる薫は、ヒーローである兄に憧れとコンプレックスを抱いている繊細な役どころだ。

「薫は無個性な自分が嫌いで。一への憧れとちょっとした嫉妬と劣等感を糧に生きている少年。そういう意味では、演じる難しさはあまりなかったんですけど、すごくよく覚えているのが、一が『神様、ちょっと悪送球やって』と言うシーン。

一が一気に感情を吐き出して、薫もそれに対して自分の気持ちをぶつけるんですけど、そこで一のことが見れないんですね。なんか見れなかったんです、一の顔が。それは薫の弱さでもあるんですけど」(北村)

自暴自棄になった兄。薫は、最後までそんな兄と向き合うことができなかった。

「本当だったらこの家族はもっと幸せな方向に進めたかもしれない。だけど、そうはいかなかった。一は、結局辛いことから逃げてしまった。一は一でどうしようもなかったんだろうなと思うけど、そんな一のことをズルいなと思う自分もいて。そういう人間の弱さもちゃんとこの作品には描かれている。

特に今年1年は、みんないろんな困難にぶち当たって、嘘でしょと思うような出来事が多かったからこそ、この映画を今年公開できた意味はすごくあるんじゃないのかなと思っています」(北村)