引退するときは絶対に先に言いたいと思っていた
伊藤「印象に残っている試合……他は……」
中村「何ですかね。もう、あり過ぎて…」
伊藤「個人的にはあれかもしれない。俺の引退試合になった(2013年の)横浜F・マリノス戦。あの試合は憲剛がめっちゃめちゃパフォーマンスが良かったから。あれにはびっくりしましたよ」
中村「俺ね、最初で最後だと思う。人のために頑張ったの」
伊藤「結構、神がかっていた」
中村「神がかっていましたね。『宏樹さんの等々力ラストゲームを負けて見送るわけには、絶対にダメだ』と思っていた」
伊藤「しかも、相手は優勝のかかっていた大きな試合。大舞台ですよ」
中村「あの試合は、もう本当に心震えましたね。それにこの人、引退すると言ったのが、その週の初めなんですよ。F・マリノス戦の週のオフの日に、電話がかかってきて、あり得ないよ、本当に」
伊藤「(笑)」
中村「それもあったから、俺は2カ月前に言ったんです。だって、さみしい。1週間前に言われて、気持ちの整理がつかないじゃないですか。だから自分は、引退するときは絶対に先に言いたいと思っていたんです。
そうしたら、たまたまチームの調子も良くて言いやすかった。やっぱり、唐突なお別れになっちゃうのはダメだなというのは、宏樹さんから学びました(笑)」
伊藤「あはは(笑)」
中村「残される方はさみしいからね。俺、今回は去っていくほうの気持ちが初めてわかったけど、意外と去っていくほうは、さっぱりいけるんですよ」
伊藤「うん」
中村「ただ残された方は、キツいから」
伊藤「俺の場合は、フロンターレだけで、憲剛の場合は背負っているものが違うから。俺はあれで良かったんだよ」
中村「いやいや、そんなことないでしょ」
伊藤「でも、改めて、憲剛のこの終わり方は本当にすごいよね。リーグ優勝を決めたことを考えても、最後に天皇杯決勝の舞台まで整ったことも含めて。普通のスポーツ選手では、なかなかできないことだと思います」
FOOTBALL PEOPLE 川崎フロンターレ 中村憲剛特集号
川崎フロンターレとサッカー人生を歩んできた中村憲剛のバンディエラの矜持に迫ります。
1万文字にもおよぶ本人のロングインタビューはもちろん、ピッチの外から見届けた天皇杯決勝のラストゲームにも密着。小林悠、家長昭博、大島僚太、谷口彰悟、登里亨平らチームメイト、恩師、クラブスタッフにもインタビュー。
サッカー漫画『GIANT KILLING』の漫画家・ツジトモによる中村憲剛の描き下ろしイラストやスキマスイッチ・常田真太郎からのメッセージ、よき理解者である伊藤宏樹との対談も掲載。
タイトル:FOOTBALL PEOPLE 川崎フロンターレ 中村憲剛特集号
発行:ぴあ株式会社
発売:2021年1月27日
定価:1,500円(本体1,364円)
判型:B5判・96ページ
Amazon、楽天ブックス、書店、ほかネット書店にて発売