「収納」も「整理整頓」も生活の負担を増やすもの
――片付いてなくても「子どもが小さいうちは仕方ない」なんてあきらめがちだったりします。おもちゃ以外の子ども用品もミニマルにおさめるためのコツなどもありますか?
森「子どもグッズの収納用品も、以前は家中に溢れていましたが、増やすとますますお金が減って家事が増え、生活が複雑になっていきます。風呂敷を使うと身軽になれます。
包んでおいて、いらなくなったらたたんでおくことができるので、物を分けるときに使っています。ハンカチも使えます。細々したものなら、ジャムの空き瓶などに投げ入れてもいいと思います。
買い物に行かない分、『物』は増えません。私は、子どもに『触らないで』『後で』『今はダメ』とネガティブな言葉を言うことも減ったのがうれしかったですね。
それから、余暇の楽しみが『消費活動』ばかりになりがちなので、公園、図書館、児童館、遊歩道など、買い物以外で過ごせる場所を探してみたらうまくいきました。雨の日には長靴を履いて、水たまりを踏んで、ぐしゃぐしゃ遊んでいると、自分でもびっくりするくらい時間が経っています。話題がそれましたが……」
――「収納を捨てる」というのは、「収納術」の特集が主婦向け雑誌であふれかえるような今、新鮮というか目からウロコでした。
森「『収納』は『カオスを作るカオス箱』だと思っています。
今は、収納の役割は『物を隠すこと』だと割り切って考えています。『物を隠すこと』に必死になってお金と時間を失ってきたので、『収納』『仕切りグッズ』が自分や家の生活を素敵にしてくれるという『幻想』を捨てました。
『美しい収納』も『整理整頓』も生活の負担を増やすと思っています」
―――実際はどんな風に収納しているのですか?
森「台所のシステムキッチンの作り付けの引き出しに、いろいろ入れています。1番目にはお箸やフォーク類、キッチングッズが入っています。2段目にはクロス類、3段目には家中の文具類が入っています。
物の量が多くなければ、仕切りがなくても使いやすくて、ごちゃごちゃになってもすぐに見つかりますし、きっちり整えすぎると息が詰まるので、日常は多少乱れている方がワクワクします。
お正月など節目の時期には、自分の心の中だけで『ここが仕切りだ』と定めて物を並べなおすこともあります。仕切りグッスなんてなくても、ビシッと整います。
『収納』『整理整頓』にロマンを感じる人は続くと思いますが、『整理整頓』『収納』がつまらないのは、当たり前の感覚だと思います」
――電子レンジも持たないというのが、また衝撃でした。
森「電子レンジがなかった時代に、どうしているかを想像して楽しんでいます。
たいてい鍋で温めるか、グリルで焼いています。冷えたご飯は、夏はお茶漬け、冬はおじやです。オールシーズン、おにぎりは冷えても美味しい奇跡のレシピですし、納豆、豆腐、卵、昆布など決まった常備菜を置いています。これからの季節は卵おじやが最高です」
―――最近はやりの「作り置き」などもレンチンが当たり前ですが……。
森「『作り置き』が流行っていますが、一気に作ろうとすると半日仕事です。料理の残りを『作り置き』と名付けたら、『作り置き』を作る必要がなくなりました。
忙しい時期は日曜日は餃子、水曜日はカレーとか固定すると、やりやすいこともありました。
無理は続きませんから、疲れたら焼鳥屋で焼き鳥を買って、大皿に並べて食べてリンゴを切ったり、家でキャンプのようにしています。
夏に子どもとパン屋さんで好きなパンを買って、夜の公園で夕食として食べたこともあります。どんな栄養満点の見栄えの良い料理よりも、風に吹かれて自由に好きなパンを選んで、小さなベンチで月の下で食べた時間は、贅沢で輝いていました」
――家電を必要最低限しか持たない生活で見えてくるものはなんでしょう。
森「電子レンジをなくしたら食生活が安定しましたね。選択肢が少なくなり、迷う時間が減りました。冷凍食品、コンビニ料理も買わなくなりました。果物や丸ごと食べられる食材をたくさん発見しました。
子どもの頃の思い出も、一番美味しく、懐かしく思い出すのは豪勢なパーティー料理ではないです。
海水浴に行くと、母がアルミホイルに塩のきいたおにぎりをくれて、太陽の下でテトラポッドの上に座って海を見ながら食べていたこと。中身はシャケとか梅だったこと。
そういう心が動く美味しい食べ物を、もう一度思い出して作ってみると、驚くほど単純で美味しく感じます」