考える力をはぐくむために役立つ映像とは

ーー小さい頃からYouTubeに触れているからか、長尺の映像を見られない子どもが増えています。子どもがYouTubeなどに触れるようになった時、どうすればいいですか?

やはり子どもと一緒に選んだ1時間~2時間の作品を見ることが大事です。私は1930年代の映画、ディズニーの『白雪姫』(公開:1937年)などもおすすめします。

もちろん、最新作のアニメなどにもいいものがありますが、作品に文学的な要素があるようなものを選ぶといいでしょう。

文学的要素は、時間をかけて醸し出されるようなものなので、8分や10分の尺の動画ばかりを見ていたら、物語の深いニュアンスがわからないだろうと思うんです。

コンテンツを作る人の立場で考えましても、視聴者の目と思考力を育てておかないと、内容の深いコンテンツを作っても誰も理解してくれないようになってしまい、文化が退廃していってしまいます。

時間をかけて議論する、時間をかけて読む、そうすることで、内省する力が増し、より深く考えられるようになる。常識を超えるだけの想像力を得るには、ある程度の、長い見聞の時間が必要なんです。

世間では、「多様性、多様性」と言われますが、私は「本当にそれで終わっていいの?」と考えています。

スイスの心理学者ジャン・ピアジェは「発達の初期は、違いに注目し、発達が進めば、共通性に注目するようになる」と語っています。

実際、小さな子はパッとふたつの物の違いに気づき、2~3歳の幼児のほうが大人よりも、違いを見分ける検知器が優れています。

が、5歳ぐらいになると、2つの物の見かけが違っていても、そこに何らかの共通性を見出せるようになるのです。その頃から、仲間集めや仲間分けが上手になるわけです。

だから「多様でいい。みんな違っていい」だけではなく「例え人種が違っても人間に必要なものは皆同じだよね。大事なのは違いを乗り越えて共通するものがあるということ」に気づいて欲しいと思っているんです。映画もそうですよね、全世界でヒットするものには何か普遍性がある。

それは作品に、文化の多様性を超えた「真理の共通性」があるからです。

「色々な違いを認めてあげましょう」ではなく「違いを認めたうえで、でも共通性があることを探しましょう、学びましょう」というところまで考える力を培って欲しいんです。

だから短い映像ばかり見せるのではなく、長く時間をかけるものを見たり読んだりして、深く考える能力を養う機会を、増やして欲しいと願っています。

現実と非現実の時間のバランスで寛容さをつちかう

ーー子どもには映像を何時間以上見せてはいけないんでしょうか?

「ベネッセ教育総合研究所」で『小さな子どもとメディア』というサイトがあります。

そこには、「親と子のメディア研究会」からのメッセージがあり、私もコメントしています。

研究会には教育学者の汐見稔幸先生や小児神経科医の榊原洋一先生ら、各分野の専門家が、科学的エビデンスをもとに、子どもがメディアを利活用するときのアドバイスをしています。

年齢別の視聴時間の制限については、こうしたサイトの情報を、ご覧になるといいでしょう。

私は、子どものテレビ視聴の調査をしてきましたが、2歳児は盛んにテレビを見ています。0歳児だって見ています。

かつて0歳児のための『ソニー・キッズビデオ』の制作の事前視聴調査もしました。

映像は、おうちの方と一緒に視聴すれば、学習に役立つものが多くありますから、時間を制限すれば大いに見せて良いと思います。

2000年代の初めの調査では、テレビを毎日5時間ぐらい見せる家庭がたくさんありました。1日に6時間~7時間と答えるお母さんもいらしたほどです。

子ども(幼児)は10時間ぐらい寝ますから、残り14時間中の活動時間の中で、テレビ視聴が6時間~7時間って相当な長さですよね。テレビ以外の遊び時間がないことになってしまいます。

五感を使った遊びとのバランス、発光する画面を見つめる目の疲れなどを考えて、どんなに長くても、1日2時間、それも連続視聴はしない方がいいですね。

ーー子ども向けの番組は実写とアニメが融合した番組が多いですよね。実写で表現するおかげで子どもが真似しやすいということはあるのですか?

それはあります。教育的な効果を考えれば、やっぱり実写で見せないとわからないものは山ほどあります。世界を教えようとするとき、オールアニメでは駄目なんです。

もちろんアニメだからこそ描ける世界もありますが、実写映像はリアルワールドをしっかり見せられ、そこでどう振る舞うのか?という、行動のモデルを明快に示すことが出来ます。

例えば、数量の概念を教えるとき、「7個のものはどう配置を動かしても、7個に変わりはない」という「数の保存」は、アニメだと魔法のように見えてしまうことがあり、実写で見せたほうが、納得しやすいわけです。

実写もアニメも適材適所に使い、子ども番組はミックスメディアでないといけないと思っています。

ーー「子どもにとってアニメだと非現実過ぎてしまう。実写から学ぶことがある」確かにそうですね。

メディア・リテラシ―を学ぶためには、今までに集積された映像の文化遺産に触れてほしいですね。

手塚治虫の『鉄腕アトム』の漫画から初期アニメへ、それからコマをいっぱい使って表現された宮崎駿のアニメなど、多様なメディアで表現されたものを5歳までに幅広く見て欲しいんです。

実写もアニメも、ほぼ均等に見ていないとその後、それぞれのメディアへの愛着がわかないんです。幼児期に形成される、愛着の気持ちは重要です。人間は愛がないものに対しては、続けて見ることが出来ないからです。

もしYouTubeで動画を見るなら1970年代の「セサミストリート」をご覧になってみてください。

マペット(操り人形)を製作者であるジム・ヘンソン自身が動かしているんですが、動きが全く違うんです。あの柔らかな絶妙な動きを見て、映像の楽しさを感じて欲しいんです。

そうやって多様なものを見て、長い物語表現を飽きずに楽しんでくれる子どもたちを、育てていかないといけませんね。

親の好きなものだけを子どもに見せるというのは危険です。おうちの方も努めて、いろいろなメディアで、多様なコンテンツを選び、いい映像を探そうと心がけてくだされば、親子で映像を見る時間は、フレッシュで楽しいものになるでしょう。

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映画パーソナリティとして俳優、監督との対談、イベントが主。TSUTAYA映画DJ、YouTubeチャンネル「新・伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談。東映チャンネル、ぴあアプリでは映画レビュー、スクリーンetc。恋愛心理と心理テスト作りは特技。聞く話す書くことが好きで司会&心理カウンセラーだけでなく、トークイベントを作る映画と人と猫好きな一児の母。