幕が上がり、オープニングシーンがスタートする。シアターオーブのステージにまず姿を見せたのは、今回のミュージカルのヒロインであるいのり(蘭乃はな)。武田軍の若き闘将、真田幸村(蘭寿とむ)の幼馴染として、密かに思いを寄せている――というキャラクターだ。原作には登場しない、宝塚歌劇版のオリジナルキャラクターである。本来、真田幸村はあまり色恋に縁のない男なのだが、宝塚歌劇である以上はロマンスは必須なので、いのりを登場させたのだろう。
物語は、幸村といのりを中心にしながら「武田軍 VS 上杉軍」の対立を描き出していく。幸村以外の登場キャラクターは、メインに伊達政宗、武田信玄、上杉謙信、猿飛佐助、かすが。さらに原作では名物脇役である直江兼続や少年時代の幸村とその父親の真田昌幸らが登場し、回想なども含めた壮大な物語が展開する。
ところで、鑑賞前に気になっていたのは、このミュージカルは果たして「戦国BASARA」寄りなのか、「宝塚歌劇」寄りなのか、ということだった。というのも、アクションと笑いの要素が強い戦国BASARAと、歌とダンス、そしてロマンスが主題となる宝塚ではまったく毛色が異なるからだ。戦国BASARAに寄れば既存の宝塚ファンを戸惑わせることになるし、完全に宝塚に染めてしまえば戦国BASARAファンには受け入れがたいものになるのではないか……そんな風に思っていたのである。
結論からいえば、本舞台はどちらかといえば宝塚に寄って作られていた。キャラクターやセリフ回しなどは確かに戦国BASARAなのだが、随所に挿入される歌やダンスなど、演出面では完全に宝塚を踏襲しているのだ。
とはいえ、戦国BASARAファンである筆者としても戸惑ったのは最初だけで、途中からは違和感なくこの不思議なコラボミュージカルを楽しむことができた。
その理由は、宝塚としての舞台の作り方をベースにしながらも、しっかりと戦国BASARAならではの要素が散りばめられているからだろう。たとえば幸村と信玄による殴り合いや、「親方様!」と連呼する暑苦しい叫び、直江兼続の空回りっぷり、伊達政宗のおかしな英語、上杉謙信とかすがの愛を確かめ合うシーン……そうした戦国BASARAの"お約束"ともいえる演出がしっかりと取り入れられているため、"宝塚でありながら戦国BASARAでもある"という絶妙なバランスを保つことに成功しているのである。