「育児奴隷」は冗談でもウソでもなかった!樋口さんがいま一番欲しい時間とは?
樋口:昔から付き合いのある男たちからは・・・ある種“憐みの目”で見られているんじゃないですかねぇ。
――エッ、憐みの?
樋口:それまで僕は、自分本位で生きてきましたから。
2011年に離婚して、前の結婚生活の終わりから作家デビューして、その後は一人暮らしだったんですね。
好きな時に自分の思うがまま好きなだけ、仕事に打ち込めました。
それがいまや、赤ん坊の中心の生活です。
「何時から思いっきり仕事やろう」と思っても、子どもを保育園から連れて帰ってきたら無理ですから。
大学を出てから社会人になって、雑誌の編集者をしていたんですが、完全に夜型で、朝寝る生活だったんですね。日付が変わる前に寝るなんてことはなかった。
子どもが生まれてからもずっとそんな調子だったんですが、とてもじゃないけど身体がもたないことが分かって、20年ぶりくらいに朝型に変えたんですよ。
昨日も日付が変わる前に寝てしまいました。子どもをあやしつけながら、こっちが先に寝ちゃう。
で、朝はギリギリまで寝ていたいのに、赤ん坊に起こされる!
今朝も何度、赤ん坊に顔を叩かれたか分かんないですよ。「まだパパと寝ていよう」って、布団の中に抱き込みました。
僕はきっちり寝ないとダメなタイプなんで、寝足りないうちに起こされても頭が回らない、まったく働かないんですよ。
「もう一人で起きられるだろ? 自分で扉を開けて、居間に行ってバナナと、コップに水も入れてあるんだから、一人でやれ」って赤ん坊に言っても・・・ダメなんです。「一緒に行こう、一緒に行こう」なんですよね。
そしてその相手は、絶対に僕です。妻ではない。三人で川の字に寝ていても、息子が起こすのは、妻じゃなくて僕の方。妻を起こしたことは一回もないんです。
で、妻は「いいねぇ」「よかったねぇ」「私のとこ来ないし」って。子どもに「パパが好きなんだもんねー」とか言いながら、多少の嫉妬は入りつつも、僕をヨイショ!
これも僕が乗せられてるんだろうなぁ、いいようにコントロールされてんだろうなぁ。
浅草キッドの水道橋博士が3人のお子さんを育てる奥様のことを“育児奴隷”に喩えていらした話は『おっぱいがほしい!』の中でも紹介しましたが。
僕も毎日、息子と妻、ふたりのご主人様に仕えてますねぇ。
――ふたりのご主人様、ですか(笑)
樋口:子どもと妻のために駆けずり回って、主夫にとって一日なんて、アッという間。いまが人生で、一日がいちばん短い!
小説を書くのがいちばん大変だと思っていましたけど間違い。いちばん大変なのは子育てでした。
――じゃあ、もっとこういう時間があったらいいなっていうのはありますか。一番あったらいいなっていう時間は?
樋口:うぅーーーーーーーーん。深夜の、ダラダラした時間?
――それ、メチャメチャ分かります(笑)
樋口:早起きしなくてもいいし、原稿を書いてもいいし、DVDを観てもいいし・・・.。飲みながら、つまみでも食べながら・・・。そういう、ダラダラした時間があったらいいなぁ。
赤ん坊が何歳くらいからできるんですかねぇ?
――子どもが大きくなってから、ですよねぇ、たぶん。
樋口:先にお子さんを育てている女性編集者さんなどからは「子どもは勝手に育ってくれるから大丈夫ですよ」なんて励まされたりもするんですが。
それこそ坂口安吾の「親があっても、子が育つ」(参照:取材後追記)なんでしょうけど。
それにしたって子どもが無事に、大きくなるまでって大変ですよねぇ。
――では今回のインタビュー【前編】の締めとして、未来に目を向けてみましょうか!樋口さんが“深夜のダラダラした時間”を過ごせるくらいお子さんが大きくなったら、どんな人になってもらいたいですか。
樋口:息子は、顔も、ワガママなところも、完全に妻似で。勉強ができるところも、スポーツができるところも、み~んな妻に似てくれたらいいんですよ。
優しいところだけ、僕に似てくれたら・・・。
――さてこんな“優しスギる兼業主夫”樋口さんですが、いざ子連れで出かけてみれば世の中に思うところもあるようで・・・にこやかに妻と子を語る【前編】から一転、【後編】ではこれまで「見えていなかった」「気付けていなかった」社会の矛盾や疑問について吼えまくります。ご期待ください!
取材後追記
樋口さんがインタビューで触れたのは、坂口安吾『不良少年とキリスト』。
「親がなくとも、子が育つ。ウソです。 親があっても、子が育つんだ。親なんてバカな奴が・・・」出典(坂口安吾『不良少年とキリスト』)
痛烈な安吾流育児論、ご興味のある方はぜひ!