東武鉄道伊勢崎線竹ノ塚駅から徒歩約7分。バス道路沿いにそのパン屋はあった。『市東製作所』。「市東」と書いてシトウと読む。
「生まれ故郷の東金(千葉県)には多い名字なんですけど、読めませんよね」と市東英司シェフは目尻をさげた。
東金出身の青年が『パーラー江古田』に入店。数多くのパン職人を輩出してきた銘店で修業。その後も2軒のパン屋でパン職人として研さんをつんだ。
「どこかのパン屋に就職しようと思っていた」矢先、パン屋の居抜き物件と遭遇。「オーブンなどすべて揃っていたので、安く開業できることから独立することにしました」
「パン文化が根付いていない」街で4年前、『市東製作所』をオープン
ところが。
「居抜き物件ありき」で開業したはいいが、ここ足立区伊興本町がどんな街なのかまったく知らなかった。この街のパン好きは、都心のパン屋で好みのパンを買ってくる人が大半だった。
そんな「パン文化が根付いていない」街で4年前、『市東製作所』をオープン。
この街がパン屋激戦区であれば、オリジナリティあふれる個性的なパンを焼かなければ勝ち残れない。けれど、この街はそうではない。
「メロンパン」、「焼きそばぱん」、「カレーパン」など、街のパン屋の定番を焼きつつ、『パーラー江古田』で学んだ個性的なパンをベースに、『市東製作所』らしいパンを提供している。
50種類あるパンの中からパン好きに食べてほしい逸品を市東シェフに選んでもらった。
一番の自信作は「バゲット」
「一番の自信作は『バゲット(280円、以下すべて税込)』です。
石臼で挽いたオーガニック小麦をブレンドしています。お客様のなかには面と向かって『こげているんじゃないの』っていわれる方もいらっしゃいます(苦笑)」
バゲット好きからすれば、市東シェフのバゲットはきちんと焼かれていると思うのだが、こげているように見えるらしいのだ。
本物志向のバゲットを食べる文化をこの街に定着させたい。そう思った市東シェフがはじめたサービスがある。
「『バゲット』を使った『カスクルートサンド(400円)』を作っています」
注文を受けてから「バゲット」を半分に切り、とろけるチーズをのせてオーブンで温める。これにハムとルッコラをのせたホットサンドだ。
「一杯ずつ淹れるコーヒー(300円)もおいしいです。『カスクルートサンド』と一緒に、店先のベンチで召し上がっていただけます」と奥様の真由美さんが教えてくれた。
真由美さんが作ってくれたアイスコーヒーと一緒に、「カスクルートサンド」をベンチで味わった。作りたてのサンドイッチがまだ温かく、芳ばしい香りもおいしかった。