相手によって自分を演じ分けているところに共感しました

鈴木亮平&宮沢氷魚 撮影:友野雄

――鈴木さんは役を掴むために何から入りましたか。

鈴木 原作の高山真さんがご自分をモデルに書かれているので、まずは高山さんの人生を辿っていくことから始めました。高山さんのエッセイを読み、生前お付き合いになられた方にインタビューさせていただきつつ、雑誌の編集という仕事を学び。

あとは、彼のセクシュアリティであるゲイということに対して、当事者の方々へインタビューを行うと同時に、ゲイの役を演じる以上、この映画が社会にどういう影響を与えるのかということにも無関係ではいられないと思ったので、LGBTQに関する現在の社会的な問題をはじめ、基本的なことから時間をかけて勉強させてもらいました。

――高山さんについて、どんな方だと思いましたか。

鈴木 結構自分と似てるなと思いました。たまたま同じ大学出身で、同じ言語学を専攻してたりとか、地方からの上京組だとか、共通点があったのもそうですし。高山さんは自分の気持ちを言葉にする仕事をしていて、僕もちょっと違いますけど、似たようなことをやっているせいか、常に自分で自分を観察する癖がありまして、そこも似てるなと思ったり。

あとはそうですね、僕がいちばん共感したのは、いろんな状況によって自分の顔を使い分けているところですね。

――自分の顔、ですか。

鈴木 いろんな方の話を聞いてると、それぞれコミュニティによって高山さんの印象が違うんですよ。みんなそういう部分はあると思いますが、特に印象の差が激しい気がして。彼の場合は同性愛者であることも影響して、そうならざるを得なかったところもあるんですけど。

僕の場合も、職業柄いろんな場面に応じて、無意識に鈴木亮平という人間を演じ分けている部分があると思います。ひょっとすると、役者をやる前からそういうところがあったかもしれない。だから俳優になりたいと思った部分もあるのかな。その点にも共感しましたね。

鈴木亮平 撮影:友野雄
宮沢氷魚 撮影:友野雄

――ということは、実際に演じるにあたってもゲイコミュニティの中にいる浩輔と、編集者としての浩輔、龍太と一緒にいる浩輔、龍太の母・妙子といる浩輔で、それぞれ顔が違うという意識を持って臨んだのでしょうか。

鈴木 そこはLGBTQ+インクルーシブディレクターのミヤタ廉さんとかなり丁寧に話し合ったところです。人はみんな演じ分けてるし、僕も演じ分けてるんですけど、彼の場合はそこに、自分がカミングアウトしている相手かどうかというレイヤーが乗っかるので、繊細にやっていかないといけないなと。少なくともゲイの当事者ではない僕が俳優として演じるわけですから、そこは最低限必要だと思いました。

――個人的には、高山さんといえばフィギュアスケートに対する深い造詣が印象的です。

鈴木 そうなんです。好きなものへの情熱がプロ顔負けなんですよね。

――ですから、ケーキ屋でケーキについて語っているシーンなんて、きっと高山さんご自身もこんな方だったんじゃないかなと思いました。

鈴木 そこの台詞はほぼまんまらしいです。「イデミ スギノ」を訪れたときに、この味知ってるとなったらしくて。オーナーシェフの杉野英実さんに話を聞いたら、15年前に自分が住んでいた街でお店をやっていて、高山さんもよくそのケーキ屋さんのケーキを買っていたことがわかったんです。

その味を15年ぶりに食べただけでわかるのがすごいし、「イデミ スギノ」はその後東京でいちばんおいしいとも言われるケーキ屋になったので、やっぱり味覚のセンスが抜群だったんでしょうね。