全シェイクスピア作品の上演を目指し、1998年にスタートした「彩の国シェイクスピア・シリーズ」がついに完結。蜷川幸雄からバトンを受け継いだ吉田鋼太郎の演出により、最後の一作『ジョン王』の幕がシアターコクーンで間もなく開く。
主人公の私生児を演じるのは、本シリーズへの参加は16年ぶりとなる小栗旬。主演を務める大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が佳境を迎える中、舞台を鎌倉からイギリスに変え、小栗はどう役と、作品と向き合っているのか。11月下旬、稽古終わりの小栗に現在の想いを訊いた。
『ジョン王』という名の私生児フィリップの成長譚
――2年半越しの『ジョン王』の上演が決定しました。演出の吉田鋼太郎さんから、小栗さんが非常に緊張されていると伺ったのですが、その理由とは?
僕にとっては5年ぶりの舞台ですから。単純に「舞台に戻れるのかな?」という緊張感はありました。
それまでは最低でも1年半に1本くらいは舞台に立っていましたし、間違いなく自分の中では演劇って“筋肉”だと思っているところがあって。それが5年もやっていないとなると、その筋肉を呼び戻すにはそれなりに時間がかかるだろうなと。そういった意味での心配が大きかったです。
――稽古開始から約10日ですが(インタビュー時)、その筋肉はだいぶ戻ってきた感覚はありますか?
そうですね。意外とそういう筋肉って記憶していてくれるものなんだなと。ただ稽古としてはまだ手応えというレベルではなくて、みんなでシーンをさらいながら、段取りをつけている段階。だからまだみんな、自分の役で手いっぱいというか。
とは言え鋼太郎さんがどんどんみんなに芝居の稽古をつけていくので、気がついたら段取り稽古ではなくなっているんですけどね(笑)。
――この『ジョン王』は、シェイクスピアの中では駄作とさえ言われている作品ではありますね。
僕もひとりで読んでいた時は、「これ本当に大丈夫かな?」と思いました(笑)。でもキャストそれぞれが声を出し、作品が転がり始めると、不思議なことにちょっと面白いんです。
僕が演じる私生児も、1幕と2幕で人が入れ替わってしまったような印象を受けていたんですが、いざ稽古が始まってみると、これ実は、私生児の成長物語なんだなってこともわかってきたりして。
そして周囲の人々も、戦争を望む人たちのある種のテンションみたいなものをそれぞれが持ち込むことによって、急激に熱を帯びた作品になっていく。そういったところが面白いなと思うようになりました。
――イングランド王ジョンに仕えることになる私生児“フィリップ・ザ・バスタード”ですが、どんな人物として捉えていますか?
先ほど鋼太郎さんが、「ひねた感じでやると面白くないから、とにかく真っすぐにいろいろなことを発見していって、気がついたらなかなか立派な人物になろうとしていた。そんなふうに作ると面白くなると思う」と話していたので、「あっ、そうなんだ。じゃあ明日からそっちで考えよう」と思ったばかりです(笑)。
ただそれにしては「なんでそんな絡み方をするんだろう?」と思うようなシーンもあるので、少しずつ埋めていかなければいけないとは思っています。
――演出家・吉田鋼太郎とは、どういったタイプの演出家ですか?
とにかく熱いですね。やっぱり僕らは蜷川(幸雄)さんの稽古場を知っているので、よくこういうことが起こっていたなということが今もよく見られるんです。
冒頭でもお話しましたが、「まずは固めよう」と言って段取りを決めているのに、役者の芝居が気に入らないと、だんだん違うところが熱を持っていって、全然先に進まない(笑)。しかも今回キャストがオールメールなので、より熱くなるのかもしれません。