では、そんなチャレンジャーたちの心をつかんだのは、何だったのか? 「漫画のキャラクターが生身の身体を持って、目の前にいる!」という驚きはもちろんあった。これは、実際に体験してみると、思ったよりスゴイ。憧れのキャラクターと、同じ空間で、同じ空気を吸っている。ステージに近ければ、彼らの巻き起こす風さえ感じられるほど。
そのうえで、テニミュの基本スタイルは初演ですでにできあがっていた。衣裳はユニフォームで、小道具はラケットのみ。コートとベンチだけのシンプルなセットの代わりに、多彩な照明効果でドラマを盛り上げ、テニスボールもスポットライトで表現することで、白熱の試合をリアルに再現。試合中のプレイヤーの心境や必殺技は、キャッチーなメロディで分かりやすく紹介される。
なにより変わらないのは、原作『テニスの王子様』のキャラクターや物語をあくまで忠実に再現していること。1曲目の『THIS IS THE PRINCE OF TENNIS』を聴けば分かるとおり、とにかく余計なひねりは入れずに、原作を愛し、リスペクトし、真剣に向き合う。正直すぎるほどの「真っ向勝負」の姿勢こそ、10年続いた一番の秘訣だ。
アイドル×卒業×ライヴ? 1stシーズン3つの革命
初演の好評を受けて、2003年夏には追加公演が行なわれ、その冬の「ミュージカル『テニスの王子様』Remarkable 1st Match 不動峰」からは本格的にシリーズ化。基本的にはライバル校ごとに、夏・冬の1年2回の公演が続く。そして、原作の全42巻、379話を網羅した1stシーズンの7年間で、革命的な出来事は大きく分けて3つあった。
1つ目は、キャストのアイドル化。初演でアイドル的存在のひとりに、越前リョーマ役の柳浩太郎がいたが、これを受けて青春学園中等部(青学)2代目からはさらにアイドル的な人気が加速。人気校・氷帝学園(2005年8月)の登場で、その流れは1つのピークを迎える。
夏の暑い日も、冬の凍える日でも、わざわざ劇場まで足を運ぶ。「会いに行けるアイドル」としては、AKB(2005年12月)より2年早く、ジャニーズなど他のアイドルにはない「近さ」も大きな魅力になった。
今のアイドルはなにより「キャラ」が大事だというけれど、それを原作から借りることができるのだから、テニミュキャスト(ミュキャス)は強い。もちろん本人の努力も大切で、「役を追求する」ことは「キャラを愛する」ことにつながり、それが原作ファンの気持ちと重なったとき、相乗効果で人気が高まる。
さらに、カンパニーの仲間と親交を深めて信頼関係を築けば築くほど、チームを大切にする原作の物語に近づく。そうして、リアルと2次元、2つの物語がどんどん重なっていった(「2.5次元」と呼ばれるのはそのせい)。