離れていく彼の心
「彼と不倫関係にあった頃、私は『好きだって言うけど、最後に選ぶのは奥さんじゃないの』『どうせ私だけにはなってくれないのでしょ』と嫌味をぶつけることがありました。
決まって彼と仲良く過ごしたときの帰り際、『どうしてそういうことを言うの』『せっかく幸せな気持ちだったのに、台無しだ』とため息をつく彼は、車の助手席で『僕を信じられないの?』と言った彼の姿とまったく同じでした。
独占欲が強いのは自分でも自覚があるのですが、不倫だった頃は『この人のせいで私は苦しいのだ』と言い訳ができたせいもあって、不満を平気でぶつけられました。
その私でも彼はずっと会っていたし、機嫌を取ってくれていたから、甘えていたのだと今は思います。
同僚の女性と仲がいいことに不機嫌になる私を見て、今度はきっぱりと『文句を言われたくない』と口にする彼は、独身者同士の交際になったからこそ受け入れないことを伝えて私に変わってほしかったのだと思います。
別れた今は彼の気持ちがわかるのですが、そのときは『私の気持ちはどうでもいいのだ』『昔からこういうところがあると知っているのだから、好きなら謝るのでは?』とどこまでも自己中心的な思いでいっぱいでしたね……。
『あの頃と同じ』、彼の気持ちより自分の感情を優先させることにチリチリと罪悪感を覚えるのですが、どうしてもその私を拒絶する彼を責める気持ちが消えませんでした。
それ以来、彼は自分の人間関係について話さなくなり、私と会わない夜の予定なども伝えてくれなくなって、距離ができていきました。
彼の気持ちが離れてしまうと焦った私は合鍵を使って彼の部屋に入り、掃除や洗濯をして彼の帰りを待つこともありましたが、ドアを開けて私の姿を確認した彼は『いきなり来られても困る』と最初に言って、感謝の言葉もあったけれど寂しくてたまらなかったです。
自分のせいなのだとわかっていても、どこかで昔のように甘やかしてもらうのを望んでいたのだと思います」