「スポーツビジネス」と聞くと難しいイメージを連想させられる人が多いだろうが、実は、“魔法”のような意味もある。その観点を少しでも持つと、スポーツの世界がよりおもしろく、一層深く見えてくるのだ。

例えばデビッド・ベッカムはなぜ、JリーグではなくアメリカのMLS(メジャーリーグサッカー)でプレーしていたのか? 「妻のヴィクトリアがアメリカ大好きだから!」……という影響もあるかもしれないが、大きな理由はMLSのビジネス戦略と関係している。

1996年に発足したMLSは健全経営のためにサラリーキャップ制度(各チームに年報総額の上限を定める)を設けているが、「ベッカムがアメリカ移籍を希望している!?」という情報を聞きつけ、2007年、各チームがサラリーキャップの枠外で2選手まで獲得できる「特別指定選手制度」を導入。一般的選手の平均年報が1000万円前後に抑えられているなか、「特別指定選手制度」によりスーパースターを獲得できるようになった。

そして2007年夏、ベッカムはロサンゼルス・ギャラクシーに入団。年報は当時のレートでスポーツ界史上最高の30億円とも報じられたが、リーグ全体の平均観客数は1試合あたり3000人以上もアップ!「ベッカムが行くなら」と元フランス代表のティエリ・アンリ、元イタリア代表のアレッサンドロ・ネスタら世界的超一流スターが後を追い、リーグは実力、人気、ブランド向上を果たしていった。

かつて「サッカー不毛の地」と言われたアメリカにあって、MLSは12年、1試合あたりの平均観客数1万9000人で世界トップ10入りを果たしている(同年のJリーグは1万7000人)。

このようにスポーツビジネスの観点を持つと、多くの謎が解けてくる。

例えば、サッカー元日本代表の小野伸二は現在、なぜオーストラリアのAリーグでプレーしているのか? その理由は、MLSの「特別指定選手制度」をマネした「マーキープレイヤー制度」で招かれたから。小野は南半球のオーストラリアで、元イタリア代表のアレッサンドロ・デルピエロと並ぶスーパースターとして人気を集めている。