朝市で豆乳と初体験の香椿餅
羅東夜市に行けなかったのは残念だが、台湾には朝市がある。特に地方都市の朝市は意外性があっておもしろい。
シャワーを浴びてすっきりしたあと、小銭を持って朝ごはん探しに出かけた。
北投の朝市では魯肉飯など重めのものを食べたが、本来の台湾らしい朝ごはんはやはり豆漿(豆乳)である。
宿から15分ほど歩き、羅東駅を通り過ぎると商店街が見えてきた。
スマホのマップを頼りに豆乳店に目星をつける。すると、道端に何やら人だかりが。スマホを見ても、その場所に豆乳店のアイコンはない。
けれど、そこは明らかに店舗型の豆乳店で、店の前に置かれた屋台に10人ほどが並んでいる。
店先に「素食(ベジリアンフード)」の文字が見える。台湾には「素食」の店が多く、人気があるのだが、ベジタリアン向けの豆乳店というのは珍しい。
とりあえず列の最後尾に並んでから、何を食べようか考える。
よく見ると、注文を待つ人、支払いを待つ人、まんじゅうが焼けるのを待つ人などが混在しているが、店の人はちゃんと把握していて、まんじゅう待ちの人に「いくつほしいの?」なんて聞いている。
店頭で客をさばいたり、まんじゅうを焼いたりする店員のほかに、奥で仕込みをする店員も何人かいるようだ。
ひとまず飢えた体にタンパク質を与えようと、豆乳を頼んだ。冷たいものではなく、常温を選ぶ。
台湾人は冷たい飲み物をあまり好まない。暑くても体を芯から冷やしてはいけないという漢方の概念が浸透しているのだ。
一番人気は、目立つ場所に置かれた大きな丸い鉄板で蒸し焼きにされている素包(野菜まんじゅう)らしい。
大きくて食べごたえがありそうだが、私が気になったのは緑色をした丸くて平たい焼き物。おそらくメニューにある「香椿餅」だろう。
香椿(チャンチン)はイタリアンバジルのような香りを放つ台湾のハーブ。
以前、これが入った麺を食べたことがあるが、なんともさわやかな香りで、ジェノベーゼパスタを食べているようだった。
この店の香椿餅はどうだろう? 期待を膨らませながら20元を支払う。
人の顔くらい大きく、丸くて平べったい食べ物だ。
外はカリッと焦げ目がついているが、割ってみると中身はふんわりしていてホットケーキのような食感。
割ったところから上がる熱々の湯気に混じって、スイートバジルの香りが鼻をつく。
意外にもおしゃれな食べ物である。抹茶のような色をしたその「餅」は、草のような清々しさと、サクサクとした歯ざわりと、ゴマ油のような香りが調和している。
羅東という知られざる街で、午前中しか営業しない道端の屋台メシ。旅は一期一会だなあと痛感させられた。
(つづく)