韓国のスンデ(腸詰)に似た謎の物体を食べてみる
昼には少し早いが、お目当てのサメの燻製食堂を訪れた。
店は3年半前そのままの姿で営業していた。通りに面したカウンターの上には赤い看板に「阿英小吃部」とある。
以前は閉店間際に来たので女将さん一人だったが、今日は日曜の昼時とあって、家族総出で店を回しているようだ。
とりあえずサメの燻製とビールを注文。
サメの燻製は、私が台湾に暮らしていた頃にファンになった。ふわふわとした食感の白身魚に燻製の香ばしさが加わる。
これがわさび醤油にとても合う。ハンペンよりも歯ごたえがあり、魚らしい香りが鼻をくすぐる。上質な刺し身を食べているようだ。
サメの燻製だけで十分だったが、隣のテーブルに運ばれていった黒い物体に目が行く。
「あれは?」と聞くと店員と客がうれしそうに「宜蘭独特の腸詰だ」と言う。見た目は韓国で食べたスンデ(腸詰)に似ている。
迷わず1人前を注文する。
運んできた店員、店主らしきおじさん、他の客たちが全員、私が宜蘭風スンデを口に運ぶのをじっと見守っている。
感想を言わなければ……。けれど、黒々とした見た目に反して、味はとても淡白でさっぱりしている。
中には刻んだ豚肉とタピオカ粉が入っているそうだが、肉よりもタピオカのゼリー質が勝っていて、脂身も少なく、ちょっと拍子抜けといった感じだ。
「独特な味ですね」とその場は無難に切り抜けたが、あらためてタレをつけて食べてみると、これがなかなか味わい深い。
ぷるぷるした食感に、腸詰独特のほのかな臭みが加わり、これが蘇澳の湿った空気感にマッチする。
台湾の東北海岸に取り残されたような小さな町で、昼酒を飲みながらサメや珍味をつまむ。
新鮮な「魚雑(モツ)」が豊富なのは、ここが港のそばだからだろう。
(つづく)