脚本にそう書かれていたから、そうなった

撮影/稲澤朝博

――それぞれ演じた役にはどのように向き合いましたか。栩谷は登場シーンの短いやり取りだけで、何となくこんな人なのでは?というのが見て取れた気がしました。

綾野:脚本の時点で確変状態なので、佑くんの言葉を借りればセリフを言うだけで成立する精度の高さが基本的にはありました。完成作を観たとき、佑くんが演じた伊関が出てきたところは、何者かまったくわからない底知れぬミステリアスさがあって、いろんな想像を掻き立てられる。栩谷はどんな人物か予想しやすい。そうゆう意味では少し感情の体温が高かったような気がします。

伊関と一緒に話はじめると、自然とフラットになり、お互い感情を取り戻していくのを感じたので、栩谷はスタートから出会うまで、もう少し抑えたチューニングもあったかなと。

柄本:(完成作を観て)そういう細かいところまでいちいち気になってしまうことありますよね(苦笑)。僕も伊関が出てくるまでは普通に観られていたのに、出てきた途端、自分ばっかり追ってしまって。で、また自分以外の人のシーンになると、その間に自分の反省をして、また出てくると追ってしまう(笑)。

綾野:インタビューで吐露してしまいました。

柄本:ありますよ、それは。

撮影/稲澤朝博

――一つ気になったところなのですが、栩谷の体つきは意識して作られたものですよね。

綾野:現在のモノクロは、フィジカルさを無くした諦められた身体を目指しました。肩とか胸には大した肉がついてなくて、お腹周りは水太りで覇気のない肉体イメージ。祥子と出会った頃の、若いときは少し締めたクリーンな体つきを目指しました。

――すごくリアリティがあるなと感じました。でも、身体づくりって年々大変になっていきませんか。

綾野:そうですね。若いときは短期間でできていた肉体作りが、今ではできません。トレーニングの時間や食事を摂取するタイミングなど、トライ&エラーを繰り返して、年齢に合わせたメニューを更新する。

年齢とともに変わっていく自分の身体を知り続けることを放棄しないことが大事です。若いときと同じにはできない代わりに、知見と探求心で進化を諦めないことですね。

撮影/稲澤朝博

――置かれている境遇からすると、伊関は栩谷によりもひどい状況だとは思うのですが、何か飄々としていて、よくわからないパワーのようなものを感じました。

柄本:今おっしゃられたようなことは、脚本でそういうふうに書かれているってことなんですよね。そう書かれていたから、そうなったという。ただ前回の『火口のふたり』のときの反省というか、心残りのようなものもあったので、(伊関を演じるに当たって)自分から持っていったものもありました。

具体的なもので言うと、過去の、伊関がまだ映画人を志しているころは、映画のTシャツを着ていて、現在の、腐ってしまったときには、ちょっとくたっとした格好をしていて。あのコートとパンツは自前のものなんです。「こんなんがいいのかな?」というのを持っていきました。前回は全くの受け身でいたんですけど、今回は衣装とか、そっちの方にも踏み込ませてもらいました。

©2023「花腐し」製作委員会

――栩谷、伊関の元恋人・祥子を演じたさとうほなみさんの印象を聞かせてください。

綾野:「カッコいい人」ですね。

柄本:うん。カッコいいですね。

綾野:地に足のついた直観力。

柄本:それでいて大らかなところもあって。

©2023「花腐し」製作委員会

――センシティブなシーンも多いので、演じる上で話し合いをする機会も多かったのではないでしょうか。

綾野:性的描写のあるシーンに関しては、インティマシーコーディネーターの方に入っていただいて、リハとコンセンサスを取り合った中で撮影し「よーい、スタート」ってなって、ストンとその世界観に入るスピード感はすごいなと感じました。

柄本:あと、馬力がある。

綾野:本当にスパンとしていて気持ちのいい方です。

柄本:そうですね。明るいし。