佑くんが相手だと何をやっても成立する
――そうやって万葉集のくだりとかが出てくるので絶対にアドリブではないことはわかるんですけど、ほぼお二人のセリフのやり取りだけで、それが結構長い時間続くけど、あまりにナチュラルだから、アドリブにも見えてきて。焼酎にきゅうりを入れるタイミングとか、タバコを消すタイミングとか、全部、絶妙なんですよね。
綾野:ナチュラルというよりは、空気を読むと言ったら変ですけど、それに近いような感覚でやっています。「このタイミングだったら会話を邪魔しないだろうな」と考えて手を伸ばしたり、逆に「ここは前に被ったほうが自然だな」と思ってわざとやったり。そういう企みの積み重ねなんです。
だから一緒にやる相手が変わると全部変わってきます。佑くんが相手だと何をやっても成立する空気感が顕著にあって、二人でしゃべっていると、勝手に自然に見えてくる。話を聞く以外の余計なことをしていても、佑くんが相手だとお芝居に見えないような感じに受けてくださるんです。
柄本:でも相手の話を聞いている、自分のセリフを言わなくていい瞬間は、結構やりがいはあるんです。セリフを言っているところは別に芝居でもないというか、逆にしゃべってない時間のほうが芝居だなという気がします。
綾野:そうですよね。受けがすべてに近いです。
柄本:何回かやっていると然るべきタイミングがわかるというか。飲むタイミングにしろ、食べるタイミングにしろ。
綾野:導線がきれいにくっきり見えるときがありますよね。「それ以外に絶対にない」というくらいの完璧な流れがあるんですけど、ちょっとしたことでその瞬間を逃してしまうとすごく焦るということもあります(笑)。だからタバコを消すとか何気ない動きも演じる側からすると大芝居なんですよ。セリフとセリフの間の間(ま)とか。間があけばあくほど大芝居。
柄本:トム・クルーズが『ミッション:インポッシブル』でやっているような、バイクで崖から落ちるとか、実際に飛んでいる飛行機に捕まるとかと、「この会話でここに手を置くのはどのタイミングか」とかは、同じレベルです(笑)。
綾野:(笑)。これはこれで映画全体の大きな要素なので。だからタイミングを逃すと、「もう絶対に動かせない」ってこともあります。
――改めて、お二人が本作を通して感じたことを伺えますか。
柄本:荒井さんの正直さですかね。「つかないケジメをつける」ということを荒井さんはされていて。「腐ってしまっても息をしている限りは生きていかなきゃ」みたいなところがこの作品にはあると思います。ピンク映画のくだりでも、「上野にもっと撮らせてあげれば良かった」というセリフが出てくるんですけど、あれは僕も大好きな上野俊哉さん(2013年逝去)という名監督のことを言っていたり。
とにかくそいつに関して話してやることが、生きている奴らができる一番の弔いじゃないですけど、そうやって気持ちの整理がつかなくても、俺らは生きているからしゃべろうぜっていうこととか。そこら辺がやっぱり荒井さんはカッコいいですよね。本当に正直な映画だと思います。
綾野:あらゆる事へのレクイエム映画です。終わりと始まり。送ることと、迎えること。僕はそんな本作を一人でも多くの方たちに届けたいと思っています。そう思えたのは、きっと今、佑くんが話してくれたことを現場からも、作品からも感じていたからだと。改めて佑くんのお話を聞いて結実しました。
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写真撮影の際にもお話が止まらないお二人。ただ単に仲良しというより、お互いへのリスペクトが根底にあることが感じられる素敵な関係性でした。映画の中では、“映画的”な作品を、より映画として完成させるお二人の演技にどんどん引き込まれていきます。映画ではければ描けない物語を、ぜひ映画館で堪能してください。
作品紹介
映画『花腐し』
2023年11月10日(金)より全国公開