法定相続と遺産分割協議は何が違うの?

「じゃあ、遺言書がない場合、法定相続と遺産分割協議するのと、何が違うの?」と思いませんか?

相続できる割合が変わらないなら同じじゃないと思われがちですが、法定相続と遺産分割するのは全く違います。

まず法定相続というのは、すべての財産がそれぞれ相続分どおりになるというイメージです。

たとえば金融資産なら、相続分どおりに分けることができますが、不動産の場合には羊羹(ようかん)のようにきっちり切って分けられません。

それでも、法定相続の場合、配偶者の名義が半分、お子さんたちがそれぞれ4分の1ずつとの共有状態になります。

もし不動産を売却するという場合にも、未成年者が売り主になりますが、未成年者自身は法律行為をすることができず、これまた通常より手間がかかります。

一方の遺産分割協議は、すべての相続財産を相続人全員でどう分けるかを協議して決めます。

今回のような場合には、家を100%奥様が取得する代わりに、金融資産をお子さんたちがそれぞれ相続分の4分の1になるように取得するといったイメージです。

特別代理人の2人と遺産分割協議をするわけですが、未成年者が害されないように法定相続分は必ず取得できるように調整するといった感じですね。

これ、想像しただけでもなかなか大変ではないでしょうか。

さらに、特別代理人を専門家にしてもらうと、代理人に対してそれなりに費用が発生します。

選任申し立てと遺産分割協議を併せて、おそらく1人につき数十万円はかかってしまうでしょう。

それでは大変と祖父母や兄弟姉妹のような親族にお願いするのが大半なのですが、無償でとお願いした場合、費用はかからないものの、相続財産のすべてを知られることにもなってしまいます。

それはそれで、何となく嫌なものですよね。

つまり……お子さんたちが未成年者のときこそ、遺言書は書いておくメリットがあるということです!

若くしてご主人を亡くされると、そのときの奥様の悲しみと不安は計り知れません。

そんな中、遺言書があれば「パパはやっぱり素敵な人だった!」と、さらに愛してもらえること間違いなしです。

遺言書は節目節目でアップデートしていく

人が1人亡くなるということは、本当に大変なことです。

財産がわからなければ各金融機関に照会をしたり、ネット銀行やネット証券を使っているとログイン等のIDやパスワードが必要になったりします。

ゆっくり悲しんでいる時間がないほど、やらなければいけないことに追われてしまいます。

そんな大変なことを、お子さんを抱えたママが不安の中でしていかなきゃいけないだなんて、想像しただけでも酷というものです。

子どもがいない場合であっても、残された奥様は大変な目に遭います。

だって奥様は、義理の関係であるご主人の両親や兄弟姉妹と遺産分割協議をすることになるのですよ。

言ってみれば赤の他人とお金の話をしなければならないのです。

こちらも考えただけで、ゾッとしませんか? おちおち成仏なんてしていられません。

もちろん元気なのが、いちばん! でも人はいつ亡くなるかわからないからこそ、まずは結婚して資産が見えてきたら、とりあえず遺言書を書く。

次に子どもができたらまた書く。子どもが成人したら、またまた書く。

そうやって遺言書は節目節目でアップデートしていただきたいのです。

仮に公正証書遺言にしたところで、前に図表で示したとおり、公証人の報酬は数万円から数十万円です。ご自身の資産を脅かす額でもありません。ストレスに比べれば、お安いものです。

遺言書を改める際は「また遺言書を書き換えられるくらい生きてこられたな」と喜びを噛み締めながら、作り直していきましょう。

そのような文化が日本に広がってくれたら、「困った」が減って遺(のこ)された人も幸せだなと思います。

家族を悲しませるために、資産を増やしてこられたわけではないはずです。

せっかく築いてきた資産を、家族に負担をかけないために備えておくのもお役目かもしれませんね。

自分の財産の分け方は自分で決めて、亡くなってからもご家族にしっかり愛していただきましょう!

(記事は2024年7月1日現在の情報に基づいています。質問は司法書士の実際の体験に基づいた創作です)

司法書士:太田垣章子(司法書士)

神戸海星女子学院卒業後、プロ野球の球団広報を経て認定司法書士に。約3000件の賃貸トラブル解決に家主側の立場から携わってきた。住まいにまつわる問題のほか、終活・相続のサポートにも従事。講演や執筆等でも積極的に発信している。

著書に『2000人の大家さんを救った司法書士が教える賃貸トラブルを防ぐ・解決する安心ガイド』(日本実業出版社)、『家賃滞納という貧困』『老後に住める家がない!』『不動産大異変』『あなたが独りで倒れて困ること30』(いずれもポプラ社)。東京司法書士会所属、会員番号第6040号。

【記事協力:相続会議
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