善化と牛肉の関係

善化で牛肉湯が有名なのはなぜか? 実は、善化には古くから牛墟(ニョウシュー)と呼ばれる牛の取引所があった。

1999年に口蹄疫が流行り閉鎖となるまでの100年間、ここは台南エリアの牛の供給源だったのだ。

農耕の牛や食用の牛、その他の肉や野菜まで、たくさんの物が取り引きされていたが、1999年以降は牛の取り扱いが禁止となり、野菜や雑貨を中心に扱う市場となった。

名前だけは「善化牛墟」のまま今でも定期的に市が開かれている。

そして、今も善化には台湾最大規模の食肉処理場があり、台南エリアの牛肉の多くがここから出荷されるのだ。

台南市内で食べる牛肉よりも、善化で食べる牛肉のほうが処理場に近いので新鮮というわけだ。

牛肉湯の町一番の人気店へ

【台湾食べ歩きの旅 #16】中山路沿い、善化慶安宮のそばにある『阿牛仔牛肉湯』はイートインやテイクアウトの客でいつも賑わっている

私はさっそく、善化でも一番人気と言われる牛肉湯の店『阿牛仔』を訪れてみた。

昼時を過ぎてしまったので、店内はガランとしている。

「今、牛肉を切らしていて、取りに行っているから3時頃また来てくれ」と若い店員が言うので、私は近所を散歩しておなかをすかせた後、ふたたび店に戻った。

店内にはすでに数組が着席して牛肉を待っている。3時を過ぎたのに、まだ材料が到着していないようだ。

大きなスープ鍋を前に、店員も暇そうである。しかたなく私も席に座って肉の到着を待つことにした。

中途半端な時間帯なのに、その後も続々と客が入り始めた。店員は来店する客に同じセリフを繰り返す。

「牛肉を取りに行っています、もうすぐ着きます」。驚いたことに、広い店内はほぼ満席になった。

まだ材料の肉が到着していないのに、である。

台湾で長らく食べ歩きをしているが、材料待ちというのは初めてだ。

店内の客は注文書に記入したり、壁掛けテレビを見たりしながら、ひたすら肉の到着を待っている。

20分ほど待っただろうか、ようやく店前に黒い普通車が停まり、大きなポリ袋に入った牛肉が2袋ほど店内に運び込まれた。

客たちがざわつく。なんだか配給を待つ難民になった気分だ。

牛肉湯は、スライスした新鮮な肉をお椀に入れて、そこに熱々のダシ汁をかけるだけなので、調理にはまったく時間がかからない。

私は注文書に記入して店員に渡し、セルフサービスのライスやタレ、刻みショウガなどを用意した。

普通、牛肉湯と一緒に食べるごはんは白米なのだが、なぜかセルフサービスコーナーには煮込んだ魯肉(豚バラ肉)も置いてあり、ほとんどの人はこれを白米にかけて魯肉飯にしている。

つまり、牛肉湯と魯肉飯の組み合わせで食べるのだ。魯肉飯に罪はないけれど、新鮮な牛肉と魯肉飯を一緒に食べるなんて、なんだか牛肉湯に対する冒涜のような気がしてしまう。

でも、魯肉が無料なものだから、みんなつい白米に乗せてしまうのだ。私も結局、控えめながら白米にちょこんと魯肉を乗せてみた。

もちろん、魯肉飯としても美味しいのだが、メインはやはり牛肉だ。

【台湾食べ歩きの旅 #16】『阿牛仔牛肉湯』の牛肉湯の小。ライス(プラス魯肉)は無料でおかわり自由

ダシ汁をかけただけのピンク色の牛肉は新鮮そのもの。ほとんど脂身がないのに柔らかく、肉の香りとにじみ出る旨味がたまらない。

小サイズなら100元でライス(プラス魯肉)付きとは破格である。さすがは台湾最大規模の牛肉の産地。豚肉をサービス付けてしまうとは気前がいい。

みつせ のりこ:90年代から台湾と関わり、台北で留学や就職、結婚や子育ても経験。現在は執筆や通訳、取材コーディネートの仕事で日本と台湾を往復している。著書に『台湾の人情食堂 こだわりグルメ旅』『美味しい台湾 食べ歩きの達人』『台湾縦断! 人情食堂と美景の旅』『台湾一周!!途中下車、美味しい旅』など。株式会社キーワード所属。