正の行動、負の行動
心理学で望ましい行動を“正の行動”と言います。望ましくない行動を“負の行動”と言います。
親の気を引くために“負の行動”をしているケースの場合、それに対して叱る行為は子どもにとっては「悪いことをすれば、親が関わってくれる」ことになり、むしろ願ったり叶ったりなのです。
だから、叱れば叱るほどその子にとっては「親に関わってもらえる」ことになるので、悪い行動は収まるどころか増えていく一方になります。“負の行動を強化している”状態に陥っているのですね。
解決策
こういうときはむしろ、悪い行動、例えばわざとお茶を零す、本を破るなどの行為をしたときは無視しましょう。つまり、子どもにとっては親の気を引くことが出来なくなるわけです。
そして、零さないでお茶を飲んだ、本を破らずに見ているなどの良い行動をしているとき「零さないで運べたね」「本を破っていないね」と認め、褒める形で関わるのです。
すると子どもは「悪い行動(負の行動)をしても関わってもらえない、良い行動(正の行動)をすれば関わってもらえる」と学習し、負の行動は自然消滅していきます。
誉める材料のない子ども
筆者は30年あまり、学習塾の先生として幼児、小学生に関わっていました。2つの例です。
お迎えに連絡なしに遅れる親の子
授業中の問題行動が収まらなかった子。例えば教室から脱走したり、突然椅子を倒したり、鼻糞を隣の子に付けたりする子がいました。この子の母親はいつもお迎えの時刻に連絡なしに遅れていました。
初めのうちは問題行動が起こる背景を考えず、闇雲に目の前で起こる悪行に対して、「やめなさい!」「ダメでしょ!」を連発していました。
ところが、母親が迎えにくるまでの時間、筆者とその子の2人だけになります。その子に片付けを一緒に手伝わせ、「ありがとう、助かるわ」と声掛けをしていました。すると、授業中と授業後の態度は豹変しました。二人きりの時はとっても「良い子」になるのです。
「そうなんだ!この子は授業中、私が他の子どもに関わっているのが嫌なんだ。連絡なしに迎えに遅れる家庭の子、寂しいから叱られてもいいから、大人の気を引きたいんだ。心の叫びなんだ」と気が付きました。
ですから、その子の行動を叱ることは、むしろ子どもの思うつぼで、望んでいたことだったのです。
それからは、授業中も180度対応を変え、椅子を倒しても鉛筆を投げても無視しました。その代りに椅子に座っている瞬間をとらえて「ちゃんと座っているね」と声をかけるようにしました。
すると、その子は「悪い行動をしても、叱られないこと=先生が関わってくれない。でも、良い行動をすると褒める形で関わってくれる」ことに気づいたのか、問題行動は消滅していきました。
誉める材料のない子ども
勉強も今一つ、授業態度も悪い、一見どこにも“褒める材料のない子”がいました。この子に叱っても行動が改善するわけはありませんでした。
そこで授業中、キョロキョロして集中力がないことを「ちゃんと前を見なさい!」とネチネチ叱るのは止めて、「雨なのに休まないで来て、頑張っているね。先生は嬉しいよ」と、出来ていることを見つけて認めるようにしました。
筆箱、ノートなどの忘れ物をしても、そのことには触れず「授業日を忘れずに教室にやってきた」ことだけを喜びました。
他にも
- パンツを履いていることを褒める
- 髪型を褒める
- 風呂に毎日入っていることを褒める
- 計算問題答えが全部間違っていても、 数字の書き方を褒める
すると、授業態度は次第に改善していきました。
子どもの問題行動、それが「叱られてもいいから、自分だけを見て」という心の叫びからくるものだった場合、叱れば叱るほど事態は悪化します。
子どもの行動の原因を見極めて賢い対応をしていきましょうね。