「美味しいって言葉が、一番うれしいんですよ。うれしいし、その言葉があれば幸せですよ。いや……本当にね、美味しいって言ってもらえるなんてほどの幸せはないですよ。それが一番幸せ」
たった一人で仕込みから調理や買い物や洗い物までやる小澤さん。パートやお手伝いの人は、たまに甘えるくらい。甘えるという表現がまた、変なおじさんぽい。
それでも、そこまでの作業をやれるのは、お客さんの「美味しい」が聞きたいからだという。
休憩になると、速やかに変なおじさんに戻る小澤さん。
「こだわりは……(笑)」と、ここで笑うのが小澤クオリティ。それでも急に真面目な面持ちになり「手作りと、手間暇。これは絶対ですね……あと道具は大切にする。それと、常にお客さんの立場になって、美味しいと思うにはどういうことをコックはするべきか考える」と、コック宝のこだわりを続けた。そして急に「あっ! それと大事なのはね…やっぱ…あー……」
「あいさつ」
決め顔で放つ「あいさつ」。そう言った後、小澤さんは足りなくなったものを買い出しに野毛方面へ。
帰ってきてすぐさま仕込みにかかり、17時をまわると夜の営業がはじまる。
レストラン「タマガワ」の、おだやかな夜の営業。厨房ではコック宝が料理をさばく。
ケチャップや卵の焼ける香り、そして、デミグラスソースの香り。
いつでもいつもの洋食が味わえる「レストラン タマガワ」。
夜の営業が終わると、コック宝のたった一人の夜の時間。明日の仕込みが始まる。
静かに静かに、そして、たまに独り言をぼそぼそ言いながら、仕込みは深夜まで続いた。
「大変だけどね。……そりゃー大変さぁ(笑)。……でも、やめません」
横浜コック宝第3号「レストラン タマガワ」小澤栄太郎氏。
ここに認定いたします。
愛すべき変なおじさん、ありがとうございました。
「28年コックやってても変わらないことは、美味しいよりいいことはたぶんないってこと」
小澤栄太郎(1963~)
※本記事は2015年4月の「はまれぽ」記事を再掲載したものです。
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