羊肉は臭いといわれている。
ヨーロッパ人にいわせると、あの匂いがたまらないというのだが、日本人からすると、あの臭い肉のどこがいいのかということになる。

また、日本で羊を食べる場合、マトン(生後2年以上)よりもラム肉(12か月未満)のほうが
柔らかくて、匂いもなく、旨いということになっている。

ところが、この国における定説が通用しない羊を食べさせてくれる店がある。
匂いがないというか、気にならない羊肉を扱っている店がある。

どんな店なのか。
その店を紹介する前に、臭いがない羊を育てている人の話をしようと思う。
その人は、峯村元造さんという。
峯村さんは、長野県長野市信州新町で羊を育てている。
羊は全身が白い毛に覆われたメリノなどが一般的だが、峯村さんが飼っているのは、顔や四肢が真っ黒なサフォークと呼ばれる品種だ。

羊というと、オーストラリアやニュージーランドなどの広大な草原で、放牧されている姿を思い浮かべる。

太陽の真下、青々とした牧草を食む羊はいかにも健康そうで、おいしそうに見える。
ところが、峯村さんによれば、羊独特のあの臭さは、青草に原因があるという。

「青草臭さが体内に蓄積され、臭みが強くなります。うちでも放牧する時期がありますが、繁殖用の羊に限られます。お産に備え、足腰を鍛えるために放牧するのです。

でも、肉用に出荷する羊は羊舎で育て、青草はいっさい与えません。干し草や穀物、ふすま、ビール粕(ビール麦)、おからを食べさせています」

青草は水分を多く含むため、栄養分が少ない。
乾燥させることで水分やアクがぬけるだけでなく、栄養価が高くなるという。
しかも峯村さんは、旨いとされるラムを卸していない。

「羊はラムがおいしいといわれていますが、私からすると、ただ柔らかいだけ。
ラムには、羊本来の肉の味がしません。
うちでは、生後12か月から24か月のポゲットと呼ばれる肉を出荷しています。
肉の味ものっているし、脂も旨い。それがうちのサフォークの特長です」

ただし、出荷量は年間200頭あまり。
フレンチやイタリアンなど、期間限定のイベントに登場することもあるが、生産量が極めて少ないため、あちこちの飲食店に卸すことはできない。