「自由にのびのび育てよう!」が日本の母親に与えた大義名分
このように、日本とアメリカでは、子どもを取り巻く社会環境がまったく違っていたにもかかわらず、「自由にのびのび育てよう!」という育児論が日本でも提唱され、その目新しい海外の教育法に飛びついてしまった母親達がたくさんいたのです。
当時、筆者は子どものための英会話スクールを大阪と神戸で経営していました。
ある日、4歳の男の子とその母親が体験レッスンを受けにやってきました。
カウンターのある受付ロビーと広い教室。教室にはカーペットが敷いてあり、子ども達は靴を脱いで入ることになっていて、教材用のプラモデルやカードや本も備え付けてありました。
初めてやってきた親子、さぞや緊張していることだろうと思いましたが、その男の子は、入ってくるなり土足のまま教室に入り、フルーツのプラモデルを投げ、さらに本棚の本も乱暴に放り投げています。
あっけにとられている私の横で、その子の母親はニコニコと笑いながら、こう言い放ちました。
「うちの子は自由にのびのび育てているんです!」
子どもが悪いことをしてもニコニコ笑って見ているだけでいい。多くの母親がこの育児法を都合のいいように解釈して飛びついてしまったのです。
“叱られない”という事が、子どもにもたらすもの
この4歳の男の子の行く末と、「自由にのびのび育てよう」という育児法がもたらす社会を、当時筆者は心底心配しました。
なぜなら、していいことや悪いこと、社会のルールやマナーなどを、まったく教えられないまま大きくなる子どもが増えるかもしれないということでしたから。
挨拶もできない、人の家に平気で上がり込む、人のものを盗ったり乱暴に扱う、言葉使いを知らない、他の子に手を出す、周りに気を配らない、などなど。
それで、大人になってから社会や人とうまくかかわっていけるでしょうか?
いえ、大人になる前にすでに周りから相手にされなくなってしまうでしょう。
乱暴者のレッテルを貼られ、周りから疎外されたら、行きつく先は目に見えています。