リモートワークの普及で、飲食シーンは「地域」に移る?
牧元 家賃で思い出したけど、豊洲の家賃って下がってないらしい。
大木 東京都なのに下げてくれないんですか?
牧元 市場関係者から聞いたところによると、一切の家賃減額はないそうです。あるのは、施設使用料・水道・光熱費の支払いの猶予が、3ヶ月でその総額が10万円ということらしく、その分は9月に上乗せして請求が来るという。みなさんバカバカしくて申請もしてないそうです。
みなさん大変ですよ。だって、魚の値段は半額近くに下がっているそうですし、店が休んでいるので、売上も半分以下になっているそうですから。
浅妻 居酒屋さんで魚屋さんの免許を取って始めた方がいて、それはもう、コロナは関係なくてずっとやりたくて準備をしていて、たまたまこのタイミングで下りたということだと思うのですが、そうやって、今、店先で生産者の野菜など売っているところもありますよね。
刺身は生物でグレーゾーンみたいなので、やるならきちんと免許を取ったほうがいいと思うのですが、何れにしても、これから、町の、つまり近所のレストランがお魚を売ったり野菜を売ったり、店で焼いたパン、お菓子なども売ってみるというのもアリだと思います。スーパーよりも品がいいし便利だよねって。
それで、近所の人が、ちょっと立ち寄って野菜買いながら、「茹でただけで美味しいですよ」なんて店の人のアドバイスをもらいながらコーヒー一杯を300円で飲んで帰る。いろんなことをして、街のホットステーション的な。
昔は魚屋さんもあったし八百屋さんもあったけど、今はそれが全部スーパーやデパートになっちゃったんだけど、今風にグレードアップして、また昔に戻るような。そのレストランを食事の場として利用するのは家族の誕生日の年に2、3度でも、週に一度は買い物に行ったりして、楽しい関係ですよね。
同時にレストランも地域の人を大事にして、地域の町会活動にも積極的に参加する。そういう風なレストランが出てきても面白いのかなって思う。まあ、先々の在り方として。
牧元 先々の在り方として、そういうのもありですよね。
浅妻 会社とかも、満員電車に乗りたくないから会社の近くに住みたいとか、引っ越すならそう思うかもしれない。だから、だんだん地域の中のレストランってもっと客との関係が密になってもいいのかな、と思って。
ドレスアップするハレの場所はまた違うとしても。だからこれからは、タワーマンションの一階なんていうのは、最高の出店場所になるかもしれません。
牧元 僕はそういうのは別だけど、リモートワークというものが当たり前の世界になってきて、これが習慣化すると思うんですよ。うちの社会人の娘なんて、1月の末からずっと家にいるんですから。そういう風に、リモートが当たり前になると、満員電車に乗ることがたまらなく苦痛になると思うんですよね。
会社にとって、人を雇うときの一番大きな経費は……給料以外の経費っていうのは、その人が座ってるデスクと椅子と共有部分面積なんですよ。
これが安くなれば、会社の利益がどれだけ上がるかってことを考えると、「私はフルリモート可能です」とか、「3日間だけリモート可能です」とかっていう採用方法ができてくると思うんですよ。
そうすると、地域というのが非常に大事で。わざわざ遠くまでテイクアウトに行けないじゃないですか。家で食事を作らないといけないから、そういう地域のそれぞれの店が活躍する場が増えていくと思うんですよね。
浅妻 やっぱり、地域に戻るなあ、という感じが。わが町自慢じゃないけど、自慢できるような便利で楽しい近所の店を地域にいくつか持つ、っていう。そういう感じに、今よりもっとなっていくのかな。
松浦 実際に今、そうなってますよね。テイクアウトが好調なのも山手線のちょっと外側に立地していて、住宅街からほど近く、普段から地元の常連がいらっしゃるような店。目白『旬香亭』の古賀シェフが「意外とね、テイクアウトでなんとか持たせてもらってるんだよ」というようなことを仰ってました。
森脇 そうですね。銀座などの繁華街は閑散としてるけど、地元は意外と買い物に来たり、テイクアウトしたりしている人が多くて。普段と変わらないくらいというか、普段以上に街を歩いていますよね。
需要あり?“料理×お酒”のテイクアウト
浅妻 渋谷のフードショー、空いてます。レジもほぼ並ばないです。商品豊富。生鮮食品の売れ残りを心配しちゃうくらい。
森脇 浜田山のケーキ店やカルディとかは並んでますよ。
牧元 僕は中野なんですけども、中野も普段と人の出はほぼ変わらないですよ。スーパーに行って驚くのは、乾麺がほとんど売り切れているという。パスタね。
浅妻 あとは粉、小麦粉。
小石原 小麦粉はない。あと、インスタでバナナブレッドのレシピがバズった結果バナナも売り切れ傾向とか!
牧元 みなさん、家でお菓子やパンを作っているんですね。パスタは、ディチェコがなくてオーマイしかなくて、愕然とした。
松浦 パスタはソースまですっからかんでびっくりしました。作ればいいのに。
牧元 それと、意外となくなってるのが安いワイン。
一同 あ~。
牧元 スーパーだと、450円とか600円とかってのがあるじゃないですか。あれは全部品切れです。だからみんな、家で飲んでるんですよ。家にいるっていうのは、こういうことなのか、と。
浅妻 やることないし、朝早く起きなくていいし。
牧元 でも皆さん家で料理を作るから、気がつくと、醤油や味噌の減り具合が異常に早い。近代になって醤油や味噌の消費量が鈍化していたのにね。知り合いにはこの機会に「手作り味噌に挑戦しました」という人もいる。そうして昔ながらの醤油や味噌を作っている蔵にたどり着く人も多いと思うんですよね。そうなるといいなと思う。
小石原 知り合いに元々、『私厨房 勇』にいたソムリエールの子がいるんですけど。今はフリーでソムリエールとして活動していて。彼女が選んだワインと常温で発送できるおつまみをセットにして、飲み会メンバーの全員に発送してくれる、というサービスをしているらしいです。一斉に同じワインを飲んで同じつまみを食べて、Zoom飲み会セット、みたいな。楽しそうですよね。
牧元 それはいいですよ。
森脇 『うぶか』でも、うぶかのカレーと同じ四谷三丁目の『鎮守の森』の竹口さんが選出した日本酒をペアリングセットにして売ってました。『の弥七』とコラボレーションしたりも。
大木 松浦さんは先日、『サカエヤ』さんの肉をみなさんが買って『ラフィナージュ』の高良さんがZoomで焼きかたを指導しながら全員で料理をするという企画の司会をなさってましたよね。
松浦 『高良シェフのZoom肉焼き講座つき熟成肉byサカエヤ』ですね。ラフィナージュも店を開けられない。サカエヤも飲食店に行くはずの肉が動かせない。という話を伺って、お客も含めてみなさんに喜んでもらえる座組みはなんだろう、と考えたらあの形になったんです。
とにかくシェフが「やっぱり料理はいいなあ」「こういう形でもお客さんとやりとりできるのは楽しいなあ」って喜んでくださった。第2回目もやることになって、そちらも即完売でした。
お酒の話で言うと、今「期限付酒類小売業免許」で飲食店でもお酒が売れるようになってますが、値付けをどうするか、頭を悩ませてらっしゃいますね。
牧元 はいはい。それ皆さん困ってらっしゃいますよ。だからまあ、飲食店は小売価格より3割くらい安い、もっと安い価格の場合もあります。実際、これをいくらで売ればいいんだろう、と。小売価格より低いのはありえないし、小売価格と同じにして売ってもいいのだろうか、とか。そういうことを考えていて。
ある人は、本当にこれを売るんだったら、普段買えないような手に入らない日本酒とか、古いヴィンテージのワインとかシャンパンとかだったら、値付けはネットとか見ると出てるので。それだったら売れるかもしれないですね、っていう話はしてました。
どこでも買えるものを売るっていうのは難しいですね。言ってみれば、キリンの一番搾りを売ってもいい、って話だから(笑)。
浅妻 とはいえ、料理を買いに行ったり、宅配のについでに1本、という感じで。あまり値段を比べるとかそういう気持ちではなくて、皆さんが1本買っていく、という感覚ではありえるかな、と思いますけど。
牧元 ありえますね。
松浦 このお料理と合わせて、というのはうれしいですよね。
浅妻 そうそう。厳密な意味ではなく、赤1本選んでつけてください、とか。
松浦 それいいですね。あの期限付酒販免許って、遠方に送れないとか細かい縛りがあれこれあるらしいんですよ。翻って言えば、お料理とセットで近所にデリバリーとかテイクアウト、といったことにはとても向いた免許だと思います。
牧元 ちゃんとそれにソムリエの言葉が付いていれば、すごくいいですよね。皆さん、料理と一緒にワインも買うでしょう。
浅妻 実際、面倒臭くなくてすごくいい。
牧元 mondoなんかも、料理に合わせてイタリアワインを用意してくれているんですけど。ああいうのは便利ですよね。どうせ買うんだから。『リストランテホンダ』も、料理に合わせて厳選したワインを、丁寧な説明つきで売られていますが、こういうのは買いたくなる。
ワインインポーターも大打撃です。そういう意味でも『ルブルギニオン』では、ブルギニオンセレクトという名前で、市場価格で売り出されています。
浅妻 いいですね。
牧元 家にあるものとか、どれか選ぶんだから。それだったら、そこのおすすめを。
浅妻 だったら料理に合うものを、3000円で、4000円で、って言って買えれば。それが例えほかの店で300円安く売ってようが気にしない、というか。気にもならない。
小石原 手間が省けるというか、間違いない!
浅妻 元々自社でワイン輸入もやって売っていた広尾の『マノア』、ジビエの美味しい店なんですが、ふと思い出して今回ワインを頼んでみたら、やっぱりすごく美味しいんですよ。こういうきっかけがないと買わなかったかもしれない、もっと早くから買っておけばよかったって見直した。
牧元 浅妻さん、『ル・コック』のテイクアウトは試したんですか?
浅妻 試しました。あのご夫妻は、あまりテイクアウトとかやりそうなタイプに見えていなかったので、(笑)、少々びっくりした。
牧元 あのスモークサーモンが食べれるんですからね。
大木 よくやりましたね、ル・コックがね。
浅妻 ホントに。取りに行った時も、お二人は変わらず静かなご様子で。美味しかったです。