芝居じゃない芝居、芝居をしていない芝居をする

撮影:山口真由子

――亨はいわゆる“普通”のキャラクターですが、“普通”を演じる上で意識したことはありますか?

逆にあんまり意識をしないことですかね。例えば、猟奇的な殺人鬼とか、『今日から俺は!!』で演じた伊藤とかだと、ビジュアルにしろ、台詞にしろ、キャラクターを作るためのヒントは多いんです。そういうキャラクターはわりと引き出しを開けやすいんですよね。

なので、亨に関して言えば、バンジョーを弾いていたり、松葉づえをついたりもするんですけど、ガチガチにしないで、どこか自分の素と近い部分を出そうとしました。そっちの方を意識していたかもしれないです。演じていることを感じないようにする、というか。

もちろんセリフもありますし、素の自分とは違う人なので全くの素を出すわけではないんですけど。お芝居をしていないようなお芝居をする、みたいな感じですかね。

芝居をしよう、って思ってしまうと、たぶん普通さの部分が濁ってしまうと思うんです。だから濁らせないためには芝居をしないのが一番なんですけど、芝居をしないとただの僕なので(笑)。芝居じゃない芝居、芝居をしていない芝居をするというか。説明するのが難しいですね(苦笑)。

© 2020『宇宙でいちばんあかるい屋根』製作委員会

――亨の映画の中では描かれていない背景を考えることはありましたか?

ありました。それは亨に限らず、どのキャラクターを演じていてもあります。亨に関して言うと、どんな男友達と一緒にいるんだろう?というのは考えました。ストーリーの中に友達の存在が出てこないんですよね。

シーンとして出てくるのは、一人でバンジョーを弾いているか、姉かつばめと一緒にいるか、なので。もしかして友達いないんじゃないかって思ったり(笑)。

バイクに乗ってバンドの練習から帰ってくるシーンがあるんですけど、そういうときは、友達と一緒にいたんだな、って思うんですけど、わりと一人の時間を大切にしている人なのかなって思ったりもしていました。

――そういうところからキャラクター作りをするんですか?

作るというほどではなく、何となく考えるという感じです。例えば、寝るときはどんな格好なのか。裸なのか、ちゃんとパジャマを着ているのか、それともスエットなのか、とか。そういうことを空き時間にふと考えていたりします。面白いから考えているだけです。

ここでもし亨が転んだら、どんな反応をするんだろう。すぐ立ち上がるのか、痛いって言いながら転げまわるのか、転んだことを隠すのか、とか。そういうのを考えると無意識のうちにキャラクターが出来上がって行ったりもするんですよね。