Photo:小境勝巳

その事実を全く知らない男性は、やがて菊地直子さんにプロポーズをしたんだって。「そろそろ結婚しないか」と。そうしたら菊地直子さんは「実は私、あなたに言わなければならないことがある。私、実は指名手配犯の菊地直子なんだ」って断ったらしいの。そこで、その男性がどうしたかと言うとさ、「わかった。それでも良いから一緒に暮らして行こう」って。

それで、2人は相模原のあばら家に隠れるように息を潜めてひっそりと過ごしていたらしい。「取り返しのつかないことに関わってしまった」「喪失感と一緒に生きていく覚悟をしなければいけない」「2人にしか分かり合えない愛の巣中で息を潜めて暮らそう」っていう大変な状況をずっと続けていた菊地直子さんと男性なんだけど、菊地直子さんは身を潜め続けた17年間の末に、ついに逮捕されることになった。後に、菊地直子さんと一緒にいた男性も逮捕されることになるんだけど、この取り返しのつかない感じがさ、当時の僕自身とダブって見えて。

僕も取り返しのつかないことになった。チンくんっていう人を失った。本当に辛いし、どうしようもないことだけど、この喪失感を抱えながら生きていく覚悟を、この時期にしたんだ。バンドを始めた頃の、あのときの気持ちとは全く違う感情だよ。絶対に消えないだろう喪失感を抱えながら、銀杏BOYZを続けていかなくちゃいけないっていう。

その後、菊地直子さんは裁判を受けて結果的にサリン事件には関わっていなかったことが証明されて無罪判決で後に釈放されたんだけどね。この経緯は当時本当に胸に刺さっちゃってさ……。

この時期は人間が逃げて逃げて逃げまくってさ、とにかく生き延びるような映画ばっかり観てた。北野武さんの『HANA-BI』、大島渚さんの『愛のコリーダ』、レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』とかね。

僕は特に意識していたわけではないけど、『アーメン・ザーメン・メリーチェイン』は、「不倫とか浮気をしている人が聴いたらたまらない」みたいな感想があるとしたら、僕が考えていたこととそんなに遠くはないのかもしれない。僕はそういう恋愛はしたことはないけどね。