銀杏BOYZの6年9ヶ月ぶりとなるフルアルバム『ねえみんな大好きだよ』が10月21日にリリースされることが決まった。本作は、オリジナルメンバー脱退後、峯田和伸1人になってから初めてのフルアルバムになるのだが、この6年9ヶ月を顧みれば、前作からここに至るまでの銀杏BOYZは休むことなくラジカルに動き続けていた。
銀杏BOYZ結成から17年間の活動の中でも、かなり濃厚な時間を過ごしていたわけだが、これらの経験や刺激が、銀杏BOYZにとって最も重要なアルバム制作にどう反映されたのだろうか。また、誰もが新型コロナウイルス感染拡大による制限や影響を強く強いられている今、峯田はどんなことを考え、銀杏BOYZの表現に反映させたのだろうか──。
ここでは、こういった今の峯田が考えていること、アルバム完成までの経緯と思い、収録楽曲についてを徹底インタビュー。アルバム収録曲数「11」にちなんで11週にわたってお届けする(毎週水曜日更新予定)。第1回の今回は、8月に生配信されおおいに話題となったスマホライブの裏話から、『ねえみんな大好きだよ』に込めた大きなテーマを聞いた。
生配信ライブをたった2台のスマホで撮影した理由
── 先月、アルバムリリースに先立ってスマホで撮影した無観客での生配信ライブがありました。好評だったようですね。
峯田 スマホライブはアルバムとは関係なくやったんだけどね。たまたま「配信でライブやらない?」って声がかかったからなんだけど、でも、やってみたら面白かったですよ。
本当にたった2台のスマホだけで撮影したんだけど、一歩間違えたら、ただの汚い映像で終わっちゃうでしょ。だから、照明とか撮り方とかはものすごい綿密な打ち合わせをしたりして、結構大変なことになっちゃったけど、でも面白かった。
── 「スマホ2台で撮る」というオンラインライブがどういうものになるか、最初は想像がつかなかったですけど、実際に観ると荒々しく臨場感がある画でした。動画ではあるけど、瞬間瞬間が、銀杏BOYZのライブ写真にも見えるような……。
峯田 僕は10代の頃からバンドのライブ映像とかをすげぇいっぱい観てきてるんだけど、80年代~90年代はまだVHSのビデオが大半だったでしょ。画質も音質も今に比べたら超悪い。でも、そういう足りない感じも込みでライブのカッコ良さ、臨場感みたいなものが映っている気がして。その画質自体にも何か特別なものを見出しちゃってたからね。だから、「銀杏BOYZで配信ライブをやるなら、いっそスマホで画質悪い感じがいいな」と思ってたの。
それにさ、そもそも無理があるじゃん、お客さんゼロの状態でバンドで音を合わせて「ライブ」っつったって。もちろんやり方、考え方はバンドそれぞれ違って良いと思うよ。お客さんがいなくても「ライブ」が成立するバンドとかアーティストもいるかもしれないって思うしね。
でもさ、銀杏BOYZで言う「ライブ」っていうのは、お客さんがいなかったら絶対に成立しないんだ。お客さんの汗、ヨダレ、ライブハウスの湿気、怒号……それに銀杏BOYZの音が鳴ることで初めて「ライブ」ってことになる。でも、その「ライブ」を無観客で、しかも配信で表現するっていうのはまず無理なことでしょう。
だから、この前の配信ライブは、せめて「生々しさ」だけは追求しようと思って「スマホ2台」ってことにしたの。「音質も画質も超ローファイで生々しくやろう。ただ演出は手を抜かずにハイファイでやるべ」ってね。
── スマホライブは渋谷の街角を歩く峯田さんの映像から始まりました。そのシーンから会場のラ・ママに峯田さんが入っていきます。このときに、峯田さんが検温・アルコール消毒をする様子も映されていました。
峯田 うん。もちろん、演奏はちゃんとやるんだけど、その前に、社会人としてマトモなこともちゃんと入れておきたかったからね。
僕は歌を歌ってるけど、その前に1人の社会人でもあるわけじゃん。たとえば、「芸をするためなら、何やったっていい。それも芸の肥やしだ」みたいな話があるけど、そういうのは僕はイヤなの。やっぱりちゃんと社会人として、社会的にきちんとして、その上で歌を歌えてると思ってるから。音楽が鳴る環境のためなら、あるいは「僕は歌を歌う立場だから」っつったって、何やったって良いってことはないからね。
だから、あの検温・アルコール消毒は必ずやりたいと思ってた。ライブ途中の空気の入れ替えとかもね。
普通の配信ライブならああいう映像は邪魔だし、絶対入れないかもしれない。でも、僕としてはああいうシーンは絶対に入れないといけないと思って。それであの感じになったんだ。
オリジナルメンバー脱退後、峯田1人になってから初めてのフルアルバム
── 演奏は、10月21日にリリースされるアルバム『ねえみんな大好きだよ』にも収録されているリメイク曲『大人全滅』から始まり、最後の『ぽあだむ』まで全9曲が演奏されました。アルバム収録曲は『大人全滅』のほか、『アーメン・ザーメン・メリーチェイン』のみでした。
峯田 まぁさっきも言ったけど、スマホライブは「アルバムの宣伝をやろう」と思っていたわけではないので。むしろ、アルバムとは別モノの「生の映像配信」というほうにこだわってやったからね。
── ただ、あのスマホライブが行われた時点では、完全にアルバムのレコーディングは終わっていて、気持ち的には新作に向かっていたのではないですか?
峯田 そうでもないかな。まぁアルバムを作っているときは集中してやっているけど、スタッフとか近親者とかに聴かせた時点で、もう僕の手からは離れていってるからね。つまり、アルバムはすでに僕の中では他人のものになっちゃってる(笑)。
確かにこれからもっと多くの人が聴いてくれてさ、知らない誰かが、どんな風にこのアルバムを自分のものにしてくれて、「ウワー!」って盛り上がってくれるんだろうか……みたいなことは楽しみだけどね。
── 前作から6年9ヶ月ぶりのフルアルバムですけど、同時にメンバーが峯田さん1人になって初めての作品でもありますね。
峯田 そうだね。でも、作り方とかは特に変わっていないよ。ただ、そのときどきで「絶対良いのを作りたい」っていうだけで、特別な心境の変化、作り方の変化みたいなのは別になかったけどね。