音楽業界のチャリティーへの意識について思うこと
――先ほどチャリティーのお話がありましたが、そういったものへの意識は以前からあったんですか?
ASKA:89年と91年に半年ずつ僕はロンドンに住んでいるんですけど、そのときに海外のアーティストと日本のアーティストとの違いを一番感じたのは、チャリティーにかける思いとかボランティア精神というものでした。向こうの方々は本気で取り組んでいますよね。しかもインターナショナル規模で。
ところが当時、日本ではアーティストがチャリティーやボランティアには手を出してはいけないと言われていたんです。偽善というふうに見られるとマイナスにしかならないから、そこは触ってはいけないっていうのが業界の常識だったんです。でも僕は2回のロンドン生活によって意識改革が行われたんですよ。
それで、ロンドンで『GUYS』(1992年)のレコーディングをやっているときに、スタッフに話をしました。日本のアーティスト、引いては音楽業界のチャリティーへの意識の低さはおかしくないか?って。
ちょうどその時期っていうのは、CHAGE and ASKAというのはものすごく盛り上がっていたので、僕たちが率先して取り組めば少しは変わるんじゃないかと。
CHAGE and ASKAがチャリティーをやることが今さら売名行為だなんて言われないだろう、それでも言われるんだったら、“史上最大の売名行為”ってスローガンを掲げてやってやろうよって強く主張しました。そこからやり方を探していったんです。
その中で、セーブ・ザ・チルドレンのことを知り、音楽業界だけではなくてもっと大きな活動にしたかったので一般企業とも組んで、大々的に広告展開などをしていきました。
その頃からチャリティーやボランティアへの意識というのは僕の中には根付いていて、だから今回熊本に向けて義援金を募るために公開リハーサルを有料で行うというのはまったく迷うものはありませんでした。
――ASKAさんがそこまでチャリティーに対して強い思いを持たれる、その原動力は何ですか?
ASKA:やっぱりここまで好きなことを仕事としてやらせていただいて、もう十分幸せな思いをさせてもらっているので。自分が音楽活動をやれているもうひとつの喜びっていうのは――これ、みなさんそうだと思うんですけどね。
口にできない、行動できないだけで――やっぱり世の中のため、人のために役立ちたいということが根本にあるのは当然のことだと思います。
ただそれをどう表現していいのか、どうアプローチしたらいいのかわからないっていうだけのことで手をつけない人が多いのだと思います。僕は幸いにも、そういうことをやって来れましたから、これから先もずっとやらせていただきたいと思いますね。
――欧米のミュージシャンと日本のミュージシャンのチャリティーに対する温度差というのは、今はどのように感じてらっしゃいますか?
ASKA:ずいぶん変わりました。今は日本のミュージシャンの方々も積極的に取り組まれていますよね。新しいNPOができると、すぐにアーティストと組んで行動を起こすような、そういう文化が日本でも出来上がったので、今では普通になりましたよね。
まさに今回の新型コロナウイルスに対してもそのような動きは様々に見られましたから。その上で大事なことは、チャリティーやボランティアというのは、無理をしてやるものではないという大原則ですね。できる人ができるときにやったらいいんです。
たとえばこのタイミングはどうしてもできないけど、落ち着いたらしっかりやらせていただこうで、全然構わない。そうした意識レベルにおいて日常になることで初めて文化になっていきますから。