テーマは毎回『ASKA』であればいいと、ある意味吹っ切れた
――選曲の面で、ストリングスとバンドが一緒になるというところで、いい意味での制約というのはあったのでしょうか?
ASKA:それはありましたね。この楽曲はストリングスがあるからこそ生きるよねっていう曲をあえて選んだセットリストになっています。
――特にポイントとなった曲、というのはありますか?
ASKA:いや、すべてがポイントですよ。そういう意味では、ツアー全体に対しても同じことが言えますね。ツアーをやるときって、ニューアルバムを引っ提げて、というのが基本の流れじゃないですか。僕はありがたいことに40年以上やらせていただいていて、『40年のありったけ』っていうツアーで自分の総決算をやったときに見えるものがあったんですよ。
これから先のツアーは、41年、42年、43年……以降ずっとその時々までの『ありったけ』なんだと。自分がそれまで作り出してきた曲をツアーごとに一番いい形でセットして各地をまわるっていうやり方がベストだなと思っています。
だからこれでツアーのテーマを毎回考えなくてもいいんだなって(笑)。テーマは毎回『ASKA』であればいいんだって、ある意味吹っ切れましたね。
――その流れであえてお訊きしますが、今回映像作品としてリリースされるツアーには、『higher ground』というタイトルが付けられています。ここに込められた意味は?
ASKA:これはですね、CHAGE and ASKAの時に作っていた曲なんですよ。意味としては、“高みを目指す”っていうことで、言葉としては割合誰もが使いたがるものではありますよね。
何においてもそうだと思うんですけど、例えばアルバムタイトルを付けるのに、この曲が一番意味を持っているからアルバム全体のタイトルにしようっていう人はそんなにいないと思うんですよ。
やっぱり目と耳から飛び込んでくるインパクトでアルバムタイトルって決まってくるものなんです。だから今回の『higher ground』というタイトルもそうですね。耳に飛び込んでいける音を持った言葉に感じました。それと『higher ground』という曲をこの形でやりたいという思いがありました。
――そこはどうしてですか?
ASKA:前にアンプラグドを代々木第一体育館でやったときに、『RED HILL』と『higher ground』がセットリストの中でもすごく喜ばれたんですよね。そのときは、弦はカルテットでした。今回は15人のストリングスと、さらにバンドがいて、ものすごく重厚な音がイメージできました。
――このツアーの映像収録に関して、今から考えるとちょっと信じられないようなミラクルが起きましたよね。というのも、最初の予定では、最終公演の熊本での収録を考えていたと。ですが実際には2月11日の東京文化会館大ホールの模様が収められました。
ここの変更の意図について、これは新型コロナウイルスの感染が広がっていった状況と関係があるんですか?
ASKA:ないです。もともと熊本は特別公演で、1日増やしたんです。今おっしゃったように、シューティングを最終日の熊本にしようとしていたんですけど、特別公演の意味合いが何かと言うと、2016年の震災です。
2011年の東北の大震災は、何かしら今も復刻向けて日本中が応援しています。熊本も大震災でした。僕は、同じ九州の福岡で隣の県ですからね。東北の陰に隠れてはならないと感じていました。
もちろん、熊本には友人が多いのもあります。1ツアーで頂いた「義援金」「募金」と言っても、「被災」という言葉の前ではお手伝いにしかなりませんが、気持ちは届けられると思いました。
ツアーの何箇所かで公開リハーサルを有料で行い、そこで集まった収益、そしてホールに設置した募金箱を義援金として最終日に届けるというのが目的だったんです。そういう特別な思いがまずはある中で、そこに映像がついてきてしまうと、チャリティーやボランティアという部分にどうしても焦点が当たってしまうんじゃないかと。そうなると行ってきたことの意味合いが変わってしまいますよね。
そこで、映像収録は東京にしようと急遽変更しました。その東京を最後にツアーは「新型コロナ」で中断してしまいました。本当に、やっておいてよかったですよね。
――本当にそうですね。
ASKA:2月11日の東京公演を収録していなかったら、もし、このままツアーが中止となれば、今回のツアーは記録に残ってなかったっていうことになりますから。