多部未華子×青山真治 撮影:奥田耕平

そんなセッションのような現場だから生まれたシーンが、本作にもあった。直実が、永瀬正敏演じるペット葬儀屋と共に夜の海を訪れる場面だ。

「実はあそこは脚本では『涙を流す』というようなことが書かれていたんです。なので、私もここは泣くんだという気持ちで撮影に臨んで。

最初にテストをしたんですが、そのときは涙を流さなかったんです。ところが、監督がそのテストを見て、『オッケー! じゃあ撤収しよう』って片づけはじめて。『え? まだテストなのに? 私、泣いてないのに?』ってなりました(笑)」(多部)

「『どういうこと?』みたいな顔をされてましたよね」(青山)

「はい。でもそのときもそのときで『監督がオッケーって言うならいいのか』と、そのまま何も聞かずに帰りましたね(笑)」(多部)

「真意を説明すると、モニターを見ながらね、目のまわりに涙をいっぱいためて、でもそれがこぼれないという多部さんの表情を見たときに、もうこれ以上やらなくていいやって気持ちになったんです。その涙がこぼれないところに、直実の心情が込められている気がした。

僕はここぞというシーンのときはよくそういうことをするんです。この映画で言えば、岸井ゆきのさん演じる愛子が破水をしたシーンも一発撮りで決めました。そういうこの場面は二度はないぞという場面が映画にはあるものなんです」(青山)

多部未華子 撮影:奥田耕平

他人の胸の内なんて誰にも100%理解することはできない。だけど、理解はできなくても心を動かされる瞬間があるから、映画は美しい。

きっと様々な困難に直面しながらも自分なりの生き方を模索していく直実の姿は、今の時代を生きる多くの女性たちにとって胸打つものとなるだろう。

「こう言ってしまうと大きなお世話と言われるかもしれないですけど、今を生きる女性たちにこういうふうに生きてほしいなという願いをこの映画に込めました。

生きづらいと言われる今の世の中だけど、女性たちには周りのことなんて気にせず堂々と生きてほしい。誰かの顔色を伺ったり、自分を抑えこんでばかりいると、どうしても生きることが辛くなってしまうじゃないですか」(青山)

撮影:奥田耕平

「もっと思うように生きた方がいいのかな、とは私も思います。私はこれが欲しいと思ったら必ず口にしますし、こうしたいと思ったら何でもやってみるようにしていて。しつこいんです、性格が(笑)。だから、周りの目はあまり気になりません。

ストレスとかプレッシャーについて考えることもほとんどなくて。ちっちゃい悩みはいっぱいあると思うんですけど、深刻にとらえすぎないというか、知らないうちに解決しちゃってることが多いんです」(多部)

「それがいいと思う。もっとね、好きに生きましょうよと伝えたいです。生きづらい世の中と言いますが、その解決方法は、生きづらさというものを生きづらさとして考えないようにすること。

自分が生きていく上で大事と思われるようなことは、悩むところにはないんです。

今悩んでいることなんて、実はぽいっとほっぽり出しても十分生きていけることだったりする。そう気づけたら、気持ちが楽になれると思います」(青山)

多部未華子×青山真治 撮影:奥田耕平

閉塞感で胸がつまりそうになるこの時代にこそ、響くメッセージがある。映画『空に住む』は、悩める現代人への優しい処方箋だ。