稲垣吾郎 撮影:黒豆直樹
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ベートーヴェンを“ハマり役”と称される日本人俳優もなかなかいないだろう。

「周りからもよくハマり役って言われるんですけど、なんでなのかわからない……。僕とは全然違う人間なんですけどね」。稲垣吾郎はそう苦笑しつつ、しかし、自身にとってこの役が、俳優キャリアにおいて特別なものであることを否定しない。

“楽聖”ベートーヴェンが、「歓喜の歌」としても知られる最後の交響曲『第九』を作り上げていくまでを描いた舞台『No.9 ー不滅の旋律ー』がベートーヴェン生誕250周年を迎えた今年、再々演を迎える。

稲垣吾郎 撮影:黒豆直樹

ベートーヴェンは「寅さん」みたい

ベートーヴェンについて「ベートーヴェンが遺したものは、エンタテインメントの全ての源になっている。“エンタテインメントを自由にした”という意味では、(音楽に限らず)どの業界においても元祖と言える存在」と語る稲垣。

エンタテインメントの世界でまさに自由な活躍を見せる稲垣ならではの視点と言える。

一般にベートーヴェンと言えば、学校の音楽室の肖像画と交響曲第五番『運命』によって、多くの日本人にとって“怖い”もしくは“気難しそう”というイメージが刷り込まれているのではないか?

この“狂気“や“怒り”といった要素を内包しつつ、一方で稲垣は、ベートーヴェンが若い時期の創作において、女性との関係に大きく左右されていたことを指し「女性に振り回されたり、人情味があって、寅さんみたいだなって思います(笑)」とこれまたユニークな言葉で評する。

稲垣吾郎 撮影:黒豆直樹

芸術家としてのある種の“狂気”とひとりの人間としての“チャーミング”な部分。

この両極こそが本作におけるベートーヴェンの魅力であり、この役を稲垣の俳優キャリアにおける随一のハマり役とさせた要素でもある。

「稲垣吾郎のいろんな要素が詰まった役だなと思いますね。二十歳の頃につかこうへいさんの原作の芝居(『広島に原爆を落とす日』)をやらせてもらって、一方でラッパ屋の鈴木聡さんの作品ではコメディ色の強い役もやってきました。

30歳くらいからは“狂気”の部分――激昂したり、エキセントリックで得体のしれないところのある役をやるようにもなって、三池(崇史)監督の『十三人の刺客』だったり、ヒールやクセの多い役も増えてきました。

アイドルグループにいる自分が王道のヒーローじゃなく、そういう役をやるってすごく面白い挑戦でしたけど、40歳を過ぎて自分がやってきたことの集大成、ひとつのまとめとなったのがこのベートーヴェンだと思います」。