大きな時代の変化のなかで、改めて物語と向きあう
――演出を任されて以降、『ラヴ・レターズ』における大きな節目を次々と迎えていますね。
そうですね、昨年2月の新生PARCO劇場“こけら落としスペシャル”で通算500回目の上演となり、8月には上演30周年を迎えて、節目のタイミングで演出させていただいたのは不思議な巡り合わせだなと感じています。
今のコロナ禍という状況も予想もしていなかった巡り合わせですが、僕自身はそれほどネガティブには考えていなくて…、もちろん、公演ができず自粛せざるを得なかった時期はネガティブになりそうな瞬間も多々ありました。
でもPARCO制作部の皆さんが真っ先に昨年5月、「PARCO STAGE@ONLINE」という配信企画を立ち上げてくださって、その中で「戯曲を読むということ〜朗読劇『ラヴ・レターズ』を通して〜」というプログラムを発信できたんですね。
『ラヴ・レターズ』をどのように稽古して、立ち上げているのかを、こけら落とし公演に出演された井上芳雄さんと坂本真綾さんと一緒にお話しさせていただきました。この企画に参加できたことは僕にとって大きかったし、すごく勇気をいただきましたね。
『ラヴ・レターズ』は人に想いを伝える作品です。このコロナ禍でどうやって生きていくのか、それを突きつけられた時に、“どう他者を受け入れ、言葉を紡いでいくのか”を語り合うプロジェクトが、この作品への愛をさらに強いものにしてくれた。僕も、劇場関係者の皆さんの前向きな熱意に負けない愛を持って、取り組みました。
先ほど「時代が変わった」と言いましたけど、2021年にこの『ラヴ・レターズ』を上演する意義は何だろうと考えます。
この作品は、アメリカの20世紀を生きた男性と女性が主人公です。“激動の60年代”とはよく言いますが、2020年になって、激動どころか、完全なる分断、他者を受け入れることができない空気が蔓延した。その現実をまざまざと見せつけられたなかで、2021年のアメリカ大統領の就任式での様々なパフォーマンスを見て、もう一度、アンディーとメリッサが生きた時代のことを考えました。
彼らは裕福な白人の二人に過ぎないけれど、二人が手紙を交わし合った50年とは、今の分断につながるアメリカの軌跡ですよね。そう思うと、どういう状況でこの二人は手紙を送り合ったんだろう、どれだけの時代をこの二人は生きてきたんだろう…ってことが、より問われるんじゃないかと思って。
2020年は当然“時代が変わった一年”になると思いますが、今の、渦中のアメリカを、当事者として僕らも見なくちゃいけない、そんな世界的な状況の変化ですよね。
じゃあアンディーとメリッサが生きた20世紀って何だったんだろう…と、ある種俯瞰して時代を見た時に、より二人のやりとりが愛おしく思えるのではないかと思います。
蜷川さんに近づけるように背中を追いかけていく
――最後に、つい先日読売演劇大賞の発表があり、最優秀演出家賞を受賞されました。おめでとうございます。意識の変化など、伺いたいです。
とても感謝しています。優秀作品賞(『天保十二年のシェイクスピア』『NINE』)をいただけたことがすごく嬉しいです。
僕自身のことや作品を知ってくださる方が増えて、そうなるとまたその作品を上演できる機会が増えていく。僕個人としても、演劇を続けていける状況を皆さんが作ってくださったり、支持してくださることで演劇の魅力をもっと多くの方に伝えることができます。
“演劇は今を映す鏡”ですから、賞を通してそのチャンスを増やしていただけることをすごく幸せだと思います。
――恩師、蜷川幸雄さんが今の藤田さんを見たら、どんな言葉をかけてくださるでしょうね。
蜷川さんは2020年に新作を演出していませんよね。ですので「もし俺が新作を演出していたら、俺が最優秀だった」とおっしゃるんじゃないでしょうか。「おめでとう」とは絶対に言うわけないと思います。
僕は蜷川さんの足元にも及ばないどころか、ずっと見えない背中を追いかけています。少しでも近づけるように頑張りたいです。
あと、おそらく「たくさんの方への感謝を忘れるな。自分自身がもし陶酔した気持ちを持ったなら、それはすべて忘れなさい」と言うだろうと思います。
これは余談ですけど、蜷川さんは何度も読売演劇大賞を受賞されていますよね。ネクストシアターの公演で作品賞を取った時に、贈賞式に「キャストだけじゃなくスタッフの若手も全員連れて行く」とおっしゃって。だから僕も、演出助手として二度、贈賞式に行きました。
後で聞いたのは「若いヤツらに早いうちからああいう場を経験させたい」とおっしゃっていたとか。それで、贈賞式では最高級のお寿司とか、美味しい食事が出るじゃないですか。それをとにかく食べろと。「フォアグラ丼は必須! 来たぞ〜、並べ並べ〜!」って(笑)。フォアグラ丼をものすごくいっぱい食べた、それを昨日のことのように思い出します(笑)。
食べ物のことはもちろん“経験”の一部です。「早いうちに経験させたい」という言葉の意味が、その時にはわからなかったんですよね。
今思うのは、ああいう機会があったから、沢山の演劇人の生のスピーチ、言葉、立ち振る舞いを目の当たりにできた。そして、ジャーナリストの方、演劇を企画するたくさんの方々と関わるチャンスをいただけた。その後、いろんな劇場で作品に携わる、演出するチャンスをいただけた。蜷川さんが、繋げてくださったのだなと。自分もいつか、そう出来るようになりたいですね。
【公演情報】
PARCO劇場オープニング・シリーズ
『ラヴ・レターズ~2021 WINTER Special~』
日程:2月24日(水)
会場:PARCO劇場
料金:7500円(全席指定・税込)
作:A.R.ガーニー
訳:青井陽治
演出:藤田俊太郎
出演:石川禅&彩吹真央