人気のミステリー小説『スマホを落としただけなのに』(宝島社文庫)が昨年初めて舞台化されたが、新型コロナウイルスの影響で千秋楽を迎える前に公演が中止に。
再演を待ち臨む観客の声に応え、2021年6月、大阪と東京でアンコール上演が行われることになった。
初演に引き続き、恋人がスマホを落としたことで事件に巻き込まれていく稲葉麻美役を演じるのは、乃木坂46の早川聖来。
途中で中止になってしまった初演の思い出や、再演に向けた意気込みを聞いた。
「やりたかった」とも言えなくて…
――初演は残念ながら途中で中止になってしまいました。どんなお気持ちでしたか?
複雑な心境でした。
たくさん稽古もしてきたし、作品に対してすごく愛情があったし、温かいカンパニーのみなさんと一緒にいい作品を作っていきたいという気持ちもあった中で、迎えた本番。
回を重ねるごとに、思いは強くなってきている部分もあったし、よりたくさんの人に観ていただきたいという気持ちを持ってやっていたので、途中で終わってしまうというのは、本当に悔しかったです。
でも、それ以上に世の中も変わって、コロナの感染状況もどんどん大変な状況になっていって、みんなが敏感になっている時期だったので、一概に「やりたかったです」とも言えなくて。そんな状況もまた悔しかったですね。
――そうですよね。そこから約1年を経て、今回は同じ座組みでの再演が決定しました。その点はいかがですか?
また同じメンバーで、同じ作品を上演することって、なかなかないじゃないですか。またみなさんと集まって、舞台に立てることは嬉しいです。
また、お客さんにこの作品をお届けできることが何より嬉しいですね。
――初演はどんな部分が思い出深いですか?
私は稲葉麻美という役を演じたのですが、舞台って、1、2時間ぐらいの短い尺の中で、ひとりの人生を生きるわけなので「麻美はこの空白の何年間、どういう思いをして生きてきたんだろう?」などと作品で描かれていないことも考えていましたし、作品の中でも役と一緒に生きている感覚を味わうことができたんです。
それから、カンパニーのみなさんの温かさも思い出深いですね。
私の出番は中盤以降なのですが、出演する直前の舞台裏で、他のキャストの皆さんが「ここから聖来のシーンが始まるね。旋風、巻き起こしていけよ」なんて声をかけてくれて、円陣を組んで、盛り上げてくれたりして。あの瞬間はすごく好きでした。
強いけど、弱い。人間味ある“稲葉麻美”を
――初演から再演にかけて、何か心境の変化はありましたか?
そうですね。コロナ禍で、リモートでのコミュニケーションが増えて、ネット犯罪も増えていると聞くので、今まで以上に今の時代にぴったりの作品になったなと思いました。
個人的なことを言えば、この1年、いろいろなお仕事を経験させていただいて、「もっとこうすればよかったなぁ」という反省点が見えてきたし、「こういうアプローチもできるかも」と自分の中の引き出しも増えたかなと思います。
例えば、ドラマのお仕事をさせていただいた時に「人間味が一番出る瞬間は、0か100かではなくて、間の感情だよ」と言われたことがあって。
「嬉しい」と「悲しい」だけではなくて、例えば「嬉しいけど悲しい」みたいな間こそ、人間味が出ると教えていただいたんです。
それを稲葉麻美役に置き換えてみると、今まで「強い女性」か「弱い女性」かという二択で役作りをしてきたんですが、「強いけれど、弱いところも織り交ぜる」ということもやっていきたいと思うようになりました。
それから、映像のお仕事を通じて学んだのは、細かい表情の作り方ですね。これまで舞台上ではあまり細かい表情を作ってこなかったんですよ。
でも、口角の上がり方など、お客さんには伝わらないかもしれない細かい表情も、同じ舞台上に立っているキャストには伝わるかもしれない。そうすると、何かまた新しい表現が生まれたかもしれないと思うようになって。
お客さんに伝えることばかりを優先してきたのですが、もっとキャストとの掛け合いのためにも作っていったら変わったのかなと考えました。
そういったように、発見や反省が大きかった1年でした。きっと他のキャストの方や、演出家の横内(謙介)さんも、それぞれ思っているところを温めてきたと思うので、そこを活かして、更にいい作品にできるのかなと。すごく楽しみです。