MCはフレンドリーで無邪気に、パフォーマンスはみずみずしくもタフに
MCでふたりは、デビューから2年を経てこうしてようやく会えた喜びを語る。
ikuraは高校生のときに初めて日本武道館でのライブを観に行き、自身のライブを前に当時のコンサートグッズを見返したという。「私、ここに立ってるんだ」と感慨深く会場を眺めながら、「1秒1秒大事に演奏するので、みなさんも1秒1秒を噛み締めてください」と語る。
またAyaseはライブ前日見た夢に10代当時結成していたバンドのメンバーが出てきたという。「がんばれって言ってくれているのかなってエモい朝を迎えた」と照れ臭そうな笑顔を見せた。
12月1日にリリースされた2ndEP『THE BOOK 2』はオリコン・デイリーランキング1位となり、同日には1stEP『THE BOOK』(2020 年1 月6 日発 売)が2位につけたが、この日のセットリストは、2019年11月に公開されたデビュー曲「夜に駆ける」をはじめ、結成からの2年を網羅する内容だった。
ふたりのMCはフレンドリーで、バンドメンバーらとわちゃわちゃとトークしている姿は無邪気だが、パフォーマンスはみずみずしくもとてもタフだ。
今回の武道館では2日間で14000人が来場したが、これまで数字上やオンラインでのリアクションだったものが、一人ひとりと顔と顔を合わせ同じ空間を作り上げる“ライブ”で、より確かな自信が芽生えてもいるのだろう。曲や、ライブが進むに連れて、その音や存在のスケール感が増していくのが感じられる。
「もう少しだけ」でスタートした中盤はメロウな曲が中心。「もしも命が描けたら」はikuraの朗読からはじまって、その歌の鼓動を丁寧に紡ぎ上げていく。ステージには歌詞がグラフィカルに映し出され、目に耳に、その言葉が飛び込んでくる。
「今回の演出、すごいでしょ?」(ikura)
「今回の演出、すごいでしょ?」と観客に問いかけたikuraは、「みなさんが物語へと入り込めるような演出になっています。YOASOBIは小説を音楽にするユニットで、すべての曲に物語があります。まだ読んでいないという人はぜひ、読んでみてください」と添える。
そしてAyaseは「早いもので後半戦、しっかりがっつり盛り上がっていきましょう。ikura選手、コールしてくれるかな」と、1階席、2階席、そして会場全体でと大きな拍手を巻き起こして、ボルテージが最高潮のなかで「夜に駆ける」をスタートした。藍にいなによるMVの絵がステージを彩って、ikuraのリズミカルなボーカルとともに会場全体をその物語へと引っ張り込んでいく。
「怪物」ではアンサンブルの馬力をあげて、獰猛に会場を駆け巡る。炎の特効もスリリングだった「怪物」から、スモークがファンタジックに煙る「優しい彗星」へと演出が際立つ曲が続いたが、「アンコール」では一転して、シンプルな照明が静謐な時を描く。
曲に入る前に「この先ずっと、音楽が続いていきますように」とikuraの言葉が祈りのように響くと、観客は一斉にスマホのライトを灯した。
何を言わずとも、こうして会場一体となって美しい時間を織り成していくのがライブの醍醐味だ。初の有観客でそんな瞬間を味わえるとは、いかにここに集まった観客の熱量が高いかがわかる。
そしてラストに据えたのは「ツバメ」と「群青」。≪知らず知らず隠してた 本当の声を響かせてよ、さあ≫とアンセミックに響きわたるikuraのシンガロング、そこにひときわ大きな手拍子が重なった「群青」は、2年を経てようやく出会えた今回の「NICE TO MEET YOU」のエモーションそのものだろう。
曲の持つ青い衝動はこの日、とても晴れやかに、カラフルな色を帯びて会場に舞い上がった。コロナ禍で観客が声を出せないなど制限がある現在だが、いつか、このシンガロングが観客のリアルな声で轟くことを願ってやまない。