おふくろを看病する親父の姿に、夫婦の愛を感じた

撮影/鬼澤礼門

やがて大成するアキラの存在は、ヤスの誇りだった。芸能界という競争の激しい世界でトッププレイヤーとして活躍する阿部と北村も、きっと父の誇りとなっているだろう。

「この仕事を始めて親孝行できたと思った瞬間は2回あって。1回目が、日本アカデミー賞で新人俳優賞をもらったとき。そのときのスピーチでも言ったんですけど、『今は小さい役かもしれないけど、きっとそれがつながるから』という親からの言葉が、ずっと支えになっていました。

8歳でスカウトされて、そこからこの仕事を続けてきた僕のいろんな姿を親は見てきた。それが初めてああいうかたちで評価されたことで僕も報われたし、きっと親も同じ思いだったと思います」(北村)

撮影/鬼澤礼門

そして2回目の親孝行が、昨年、DISH//として初出場を果たした紅白歌合戦だ。

「紅白は出場が決まったとき、親がものすごく喜んでくれたのを見て、紅白の大きさを知りました。僕たちの出番なんてほんの一瞬で、時間にしてみれば2分くらい。でも、そのわずかな時間を親やおじいちゃんおばあちゃんが本当に誇りに思ってくれたことで、親孝行ができたのかなとうれしくなりました」(北村)

「うちの親父も、僕が出ているドラマは毎回見てくれています。映画の完成披露イベントがあったら必ず来てくれて。だいぶ年だから、ちゃんと見られてるのかはわからないですけど、そうやって応援してくれることが力になります」(阿部)

撮影/鬼澤礼門

阿部自らも年を重ねたことで、さらに父親への愛情も深まった。

「最近は親父と散歩をするのが楽しみで。そこでいろんな昔話をするんです。やっぱり自分の話を聞いてほしいんですよね、あの年になると。普段は兄貴が親父の世話をしてくれている分、親父の話の聞き役になるのも、たまに遊びに来る僕の役目。それに僕自身が親父の歴史を自分の中に刻んでおきたいという気持ちが強くて、親父とよく話すようにしています」(阿部)

そう父のことを語る阿部の目元には、優しい笑い皺が浮かんでいる。

「おふくろが亡くなったときも親父が一生懸命看病していて。最期を迎えるときに、おふくろに感謝の言葉を伝えたんですよ。その姿に、子どもには見せない2人の歴史というか愛情を感じちゃってね。それからというもの、芝居でもなまじ簡単に『愛している』と言えなくなりました。愛なんてものはそんな簡単に口できるものじゃないんだと、親父とおふくろから教えてもらった気がします」(阿部)

見守ってくれることが当たり前すぎて、親に感謝の言葉を口にする機会はそう多くない。だからこそ、映画を通して伝えてみるのもいいかもしれない。あなたの子どもに生まれて良かった、と――。

映画『とんび』は全国公開中。