旬や流行が過ぎ去ることは怖くない
天才監督・王子を演じた中村。芸能界という才能がひしめき合う世界で生きてきたからこそ、自分の才能にも他者の才能にも敏感なところはあるはず。この世に「天才」というものははたしているのだろうか。
「天才はいるんじゃないですか。僕の中で天才の定義があるんですよ。簡単に言えば、若くして周りがほっとかない人が、天才。その定義で言うと、自分は周りからいくらでもほっとかれていた若手時代だったんで、才能がないなっていうのは痛感いたしまして。だけど、そんな人間が今もこうしてやらせてもらえることから考えても、才能だけじゃないんじゃないのとは思う。
真面目な話、才能なんてものは最初のスタートダッシュなだけで。才能があろうとなかろうと、それを持続できるガソリンというかね、向上心とか努力とか好きっていう衝動の方が、長い目で見たら大事だなって思いますね」
そう語る横顔に、先ほど彼が口にした「嘘つけって、お前が歯食いしばってやってきたからだろうって思う」という言葉がよぎった。中村倫也が世に出てきたのは、人の支えはもちろんある。でも間違いなく、スポットライトが当たらない場所で、彼が努力を積み重ねてきたからだ。
「僕の場合、役者として幸せになれる未来がまったく見えないスタートだったんで、まあ、おのずと必死こきますよね。そうすると、なんだよこの現場って思ったり、なんだよこの役って思うような役でも、自分の気持ちと姿勢次第で学べることが見つかる。
たとえ1日に1カットも撮られない日があろうと、台詞が1行もない台本を渡されようと、どの出会いも無駄にしたくないなっていう想いだけは人一倍ありました。まあ、無駄にできない状況だったからですけど」
そして今、中村倫也という才能を多くの人が認めている。王子千晴は『光のヨスガ』という伝説のアニメを生み出すも次が続かず、8年もの間、表舞台から姿を消していた。光り輝く場所に立てば、今度は才能が消費される恐怖が生まれる。だが、その恐怖とは中村倫也はどうやら無縁のようだ。
「消費されることに対しては、特に何にも思っていないです。旬とか流行みたいなものは、そのうち過ぎ去るだろうなとは思ってたんで、別に怖くはないですし」
この達観とも客観とも言える姿勢。それは、流行が過ぎ去っても怖くないと思えるだけの、揺るぎない自信があるからなのだろうか。
「自信なんてひとつもないです。でも取り繕ったところで、自分は自分でしかないというか。明日、プロレスラーに喧嘩で勝てって言われても勝てないですし。その都度できることをやっていくしかない、って思っているから怖くないのかな。それより怖いのは、過去の自分と同じ表現をしちゃうこと。そうならないように、とは思っています」
一過性の人気や流行ではなく、向き合うべきは自らの表現。これだけ熱狂の渦にいても、まるで舞い上がったところが見えないのは、そう理解しているからだろう。
一度やった役をコピー&ペーストするような芝居はしない。作品ごとにまるで異なる顔を見せる中村倫也の演技は、そんな矜持に支えられていた。
映画『ハケンアニメ!』は5月20日(金)より公開。
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