主人公の岩森は“ヒーロー”でも“探偵”でもない
――脚本に関してはどのような印象を持たれ、岩森という主人公をどのように作っていきましたか?
脚本は盛り沢山でしたね。奥さんを捜すうちに、次から次へと事件に巻き込まれて、鵜頭川村にのみこまれてしまう。僕も結末には驚きました。
――岩森はどういう人物だととらえたのでしょうか?
そうですね、特に目立ったところもない、どこにでもいそうな男、というイメージでした。ただ、全てが順調ではないだろうという雰囲気は登場から感じてもらえるんじゃないかと思います。
岩森を演じる上で軸になっていたところは、行方不明の奥さんを捜している、というところでした。そこから始まり、鵜頭川村にやってきて、災害やいろいろな事件に巻き込まれて岩森の問題が浮き彫りになってくるといった感じです。
それから、鵜頭川村には対立した“矢萩家”と“降谷家”があるんですが、この村の間に立たされている岩森が、どういう距離感でいるのかということは意識していました。
村のしきたりとか慣習って、外の人間からしたら嫌なものだろうなって。岩森は外から来た人間というスタンスを変えない方が面白いんじゃないかと思ったので。「早く妻を見つけて帰りたい」という気持ちで演じていました。
彼が災害で孤立した村の中で唯一の医者になってしまうという設定も、村の人間との距離感が描ける要素になっていて面白いと思いました。嫌でも関わりを持たざるを得ない状況ですから。
それでも、村のみんなを助けることに奮起するヒーローのように見えてしまうのは彼のバックボーンからは逆に異様だと思ったので、温度を低めにしていたように思います。
――因習の残る閉ざされた村に外部からやってきて、殺人事件に遭遇して……というシチュエーションは、演じ方によっては“金田一”的な探偵のポジションにもなりうるかと思いますが……。
そうなんですよ。脚本を読んでいてその岩森の心情を噛み砕くのは難しかったです。そこが唯一“奥さんを捜す”ということから離れた瞬間だったのかもしれないですね。
岩森と村人たちとの距離感を考えたときに、村の問題を解決することが、奥さんを見つけることにどう繋がってくるのかが分からなかったんです。
――“探偵”的な役柄を演じることには興味や楽しさを感じなかったんですか?
いやー、それをやるなら探偵役でやりたいですよ(笑)。(岩森は)医者だからなぁ。でも、今考えると、ことごとく予想が外れて、その度にボロボロになって、岩森は目的が分からなくなってしまっていたのかもしれないですね。とにかく真っ暗な洞窟から抜け出したい思いだったのかも。