ソファーに座って過ぎていく時計をずっと見ていました

©2022映画『そして僕は途方に暮れる』製作委員会

――藤ヶ谷さんだけでなく、他のキャストさんのコメントからも大変な現場だということが伝わってきたのですが、特にどんなところが大変でしたか。

テイクを重ねる回数が多いんです。例えば、裕一が部屋に入ってきて、その中にいた親友と話しをして、事件が起きて、その場を去るというシーンがあったとして、それを一連で撮ったあと、カットがかかって「もう1回」と言われたとするじゃないですか。

そしたら、三浦さんが「最初の扉を開けるところ、あと2間、待ってくれる?」って言うんです。こちらからすると一連の最初だから、その時にカットをかけてくれたらと思うんですけど、全部やってからカットがかかるんです。

それでもう1回、今度は2間遅らせて、最初から最後までやるじゃないですか。そしたら「今の芝居だったら、2間じゃなくて、1間半だったな」って言われて。「うわ~、わからない」みたいなのを永遠にやるんです(笑)。

だから、撮影のあとにキスマイのツアーがあったんですが、アイドル業に支障がでました(笑)。それは初めての経験でした。それぐらい、上辺だけではできないものを引き出してもらったんだと思います。それは役を演じる者としては喜びでした。ただ一歩外に出てライブをやった時に、裕一が歌っていても仕方ないじゃないですか。なのに心も表情も動かないんですよ。

ある時、迎えの時間の15分を過ぎると、マネージャーさんがインターホンを押すんですけど、初めて押されたことがあって。僕は基本的に寝坊をしないので、その日も家で準備はできていたんです。けど、ソファーに座って過ぎていく時計をずっと見ていました。めっちゃ怖くないですか。三浦組はこうなります(笑)。

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――キスマイのメンバーからは心配されませんでしたか。

その時は、他のメンバーはリハが進んでいたので、撮影で遅れていた僕はとにかく一人で全部振りを入れなくちゃいけなかったので、一人でリハをして、最後の数日でメンバーと合わせて本番って感じだったんです。

だから、そんなに一緒にいれなかったのもあったんですけど、声がかけられない感じだったんじゃないかな、きっと。そのときのことをメンバーには直接聞いていないですけど。僕も心が動かないから楽しくなかったんです。だから本当に申し訳なかったとは思っています。

ただそれによって自分のキャパを知ることもできたので、今の自分の基準としてグループ活動に支障がでる量のソロ活動はしないというのを決めました。やってみないとわからなかったことですけど、心が動く状態をキープしておかないといけないなと。ホント、よくやったなと思います(笑)。

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――その過酷さを共演者の皆さんと共有することはありましたか。

(彼女役の)あっちゃん(前田敦子)と(親友役の)アッキー(中尾明慶)は舞台のときも一緒でしたけど、(父親役の)豊川(悦司)さんと(母親役の)原田(美枝子)さんは今回が初めてで、「これを藤ヶ谷くんは全員分やっているの?」って言われました(笑)。

例えば、父親とのシーンが終われば、豊川さんは基本的にそこで終わりですけど、僕は次の逃げた人のところに行くので、そこでまた同じことがあるんです。大ベテランのお二人から「これをやってる君はすごいよ」と言っていただきました(笑)。

それに、僕は逃げてる最中も自転車を6時間くらい漕ぐとかもあるし。ママチャリだったのでせめて電動が良かったですけど(笑)。とにかく、そういう一つひとつの積み重ねが画にしっかりと出ていると思います。

ホントに一切の妥協がないんです。夜のシーンを撮っていて、朝日が出てきたから撮影が終わるかもって思ったら、日が出ても続けていましたからね。終わると思った自分が情けない(笑)。「編集で消せますから」って言われて、これは永遠に続くんだなって。まさに途方に暮れました(笑)。