2023年1月6日から岐阜・名古屋では先行上映中、13日からは新宿ピカデリーをはじめとする全国の映画館で公開が控え、話題となっている映画『ひみつのなっちゃん。』。
映画初脚本・初監督作品となる田中和次朗監督が完全オリジナル脚本で挑んだ期待作であり、本作の舞台となった郡上八幡は田中監督の故郷でもある。郡上八幡は岐阜県のほぼ中央に位置し、“郡上おどり”は、約400年以上もの歴史を持つ郡上八幡夏の風物詩となっているのだと言う。
この物語の中で“郡上八幡”は、タイトルにもなっている“なっちゃん”の地元として描かれていく。バージン(滝藤賢一)、モリリン(渡部秀)、ズブ子(前野朋哉)の3人のドラァグクイーンが、“オネエ”仲間である“なっちゃん”の突然の死をキッカケに、なっちゃんのお葬式に参列する為に、岐阜県・郡上八幡へと向かうというロードムービーだ。
“オネエ”であることを知らない“なっちゃん”の家族の為に、3人は秘密を守り抜くことが出来るのか!? “普通のおじさん”になりきる3人が繰り広げるハートフルヒューマンコメディ。
歳を重ねたバージン(滝藤賢一)が、この先ドラァグクイーンとして踊り続けていくことへの葛藤や、“オネエ”であること“ドラァグクイーン”であることに ついて、それぞれの悩みや、やり切れない想いを抱くモリリン(渡部秀)やズブ子(前野朋哉)の深い胸の内は、改めて自分と向き合わせてくれるキッカケとなる。
そんな『ひみつのなっちゃん。』の主題歌を担当するのは、渋谷すばる。この物語に、自身を重ねたという渋谷。彼はこの物語から何を感じ取り、何を伝えたいと思ったのだろう? 1月11日にリリースされた「ないしょダンス」が生み出された経緯を渋谷に訊いた。
早く書きたい!って、掻き立てられた作品
――1月11日にリリースされた「ないしょダンス」は、俳優の滝藤賢一さんが映画初主演を務める『ひみつのなっちゃん。』(2023年1月13日全国公開。岐阜・名古屋は6日から上映)の主題歌として作られた楽曲だったそうですが、作られた経緯を訊かせてもらってもいいですか?
まず、台本を頂いたとき、何も考えず、ただただ台本を純粋に読もうって思って読み始めたんです。
“自分がこの映画のタイアップ曲を作るんだ”という意識もまずは持たないで、ただただ純粋に、この物語を読んで、自分の中に何が残るのかな? どんな気持ちが残るのかな? っていうところだけを自分自身が知りたくて、まずは本当に何も考えずに台本を読んだんです。
――最初の印象はどんな感じだったんですか?
めっちゃ面白かった。予告映像にもなっているんですけど、“なっちゃん”のお母さんが訪ねて来るシーンあるでしょ。そことかほんまに面白いなって思って(笑)。
序盤からクスッて笑っちゃう場面が自分の中でたくさんあって。そのあたりかなぁ。読みながら、“この映画にロックンロールってすごく合う気がするな”って想いながら読み進めていった感じだったというか。
――まさしく、田中監督はこの先も、“コメディを撮りたい”っておっしゃっていましたからね。『ひみつのなっちゃん。』を作られるとき、最初、“お葬式の映画を撮りたかった”っておっしゃっていて、そこからだったんだ……って少し驚いたんです。そこに、お知り合いのオネエの方のご友人がお亡くなりになって、やはりご友人はカミングアウトなさっていなかったこともあって、お葬式でバレない様にするのが大変だったっていう、実話を重ねて今作のストーリーをお書きになられたという流れだったと。
僕も実話から広げられていったお話しだと監督からお聞きしたときには驚きました。でも、だから嘘っぽくないんだなって思ったんですよね。なんかね、人間のあったかさを感じたんです。人と人との繋がりの大切さを感じたのもそうやし、全部観終わった後に、すごく伝えたいことのある映画だなって思ったんです。
ドラァグクイーンとかLGBTQ+とか、イタズラに興味本位でヅカヅカと入り込んじゃいけないところでもあると思うんです。ちゃんと向き合うべきというか。
特別視するという意味じゃなく、ちゃんと曲がって伝わることなく、伝えるべきところでもあると思うので、最初は、本の趣旨として、どういうテンション感なんだろう?ってすごく考え込みそうになったんですけど、まずは本当に先入観とか深く考え込まずに純粋に自分の中に入れたかったんですよね。そしたら、1番に自分の気持ちの中に残ったのが、“あ、この映画、めっちゃあったかいな”だったんです。
――すごく分かります。元気にしてくれますよね。
そう。本当に背中を押してくれる感じがする。
――台本を読んでいる時点で掻き立てられた感覚だったんですか?
そう。早く書きたい!って感覚になれたというか。それって、作品の力だと思うんですよね。
――田中監督は渋谷さんがこの歌詞の冒頭で書かれた“「お前は普通じゃない」”“じゃあ普通って何なんだろ”というところに、とても共感されていらっしゃいましたよね。主演の滝藤賢一さんも。
そう。今回、田中監督や滝藤賢一さんと今作(『ひみつのなっちゃん。』と「ないしょダンス」)について、いろんな媒体を通して対談をさせて頂いて、その部分への共感を語って貰えたことで、改めてこの映画にみんなが託した想いや意味を、より深く再認識させられた感じがしたんです。
田中監督は、お話させて頂いて、本当に物腰が柔らかで、本当に人間性もあたたかで、ご自分も言ってらっしゃいましたけど、グイグイと現場を引っ張っていく“ザ・監督”的なタイプではなく、“みんなで一緒に作り上げて行きましょう!”っていうタイプで、現場のみんなを尊重しながら進めていく感じの方でもあったんですけど、そんな柔らかな人柄の中にも、やっぱり何処か反骨心みたいなのがあるんだな、訴えたいことがあるんだなっていう熱意を感じさせられたんですよね。
それが、“「お前は普通じゃない」”“じゃあ普通って何なんだろ”という僕の書いた歌詞と重なる部分だったんじゃないかな?って思ったんです。
滝藤さんも同じく、あんなに熱量の高い真に迫るお芝居をされる役者さんで、自分の考えをとてもしっかりと持っていらして、誰もが憧れるようなカッコイイ生き方をしていらっしゃる俳優さんなのに、やっぱり“「お前は普通じゃない」”“じゃあ普通って何なんだろ”って思いながら生きてきた過去があったんだよ、だから自分にもすごく重なる部分を感じたんだよってお話をして下さって。
この映画を通して、「ないしょダンス」を書かせて頂いたことで、こんなにもいろんな方々と、いろんな深いお話しをさせて頂けて、向き合える機会を貰えたことを、本当に幸せに感じているんです。「ないしょダンス」を書かせてもらったことで、自分自身が成長出来たと感じることが出来たんです。
――たしかに。なかなかここまで深く“生き方”の話をする機会ってなかったりしますよね。でも、今回は『ひみつのなっちゃん。』という映画を通して、そこに関わった方々が、みなさんご自身の生き方とも、とても深く重ね合わせていらした感じがします。
そうなんですよね。内に秘めた反骨心というか、ハングリー精神というか、そういう共通した部分を知ることが出来たなって思うんです。
監督とか役者さんとかドラァグクイーンとか、音楽を作ってる日常ではなかなか会う機会もないし、性格的に自分からそういう人達の中に交わりに行こうとするタイプでもないから、こういう機会を貰えたことで、自分の作った音楽を介してこんな風にいろんな人達とお話しさせて貰える機会を頂けたことで、いろんな経験になったなって。ほんまに楽しかった。