東出昌大っぽさなんて全然なくていい
――裁判シーンでは、実際の裁判で行われたやり取りを再現するなど、本作ではリアルさを追求した部分が多かったそうですね。
例えば、『冷血』の(著者)トルーマン・カポーティを(映画『カポーティ』で)演じたフィリップ・シーモア・ホフマンとかは、普段の彼とは話し方から全く違っていて。だから僕も金子勇という実際の人がいたならば、できる限り金子勇になりたいと思っていました。
それが実際にできていたか、いないかは一旦、置いておいて、そこまでやる役者の芝居が、僕は好きだし、東出昌大っぽさなんて全然なくていいと思っていました。
――それが今回、体重を18㎏も増量させたことにもつながるのでしょうか。
そうですね。
――最低限やるべきことだったと?
そう思っていましたけど、自分でもここまでの増量は初めてのことだったので、ちょっとした意地みたいなものもあったとは思います(苦笑)。
――やはり実在の人物を演じるのは難しいですか。
ただこういう偉大な人物を演じさせていただけることは役者冥利に尽きます。僕は、金子さんを演じてから、あんまり愚痴っぽいことを言うのは止めようとか、人に怒ることはなくおおらかに過ごしたいとか、そういう想いが生まれました。
それができているかはわからないし、願望かもしれないですけど、金子さんから学ばせてもらったことは大きかったです。まだまだ実践は足りていないんですけど(苦笑)。
――壇先生から聞いたお話で印象に残っていることはありますか。
金子さんがたった一度だけ、悔しさをにじませたことがあったとおっしゃっていて。映画では描かれていないんですけど、一審が終わって有罪になったときに、罪を認めて罰金を払えればプログラミングができるようにはなったんです。
でも壇先生は金子さんに「後世の技術者のために闘いましょう」と、裁判を続けるように言ったら、金子さんから「壇先生は僕にパソコンを触らせたくないのですか?」って、すごく寂しそうに言われたんだそうです。
壇先生が「恨み言みたいなのは、それが最初で最後でした」っておっしゃっていたんですけど、それを聞いてやっぱり金子さんは寂しかったし、悔しかったんだろうなと強く思いました。
壇先生とは、(壇役を演じた)三浦(貴大)さんも含めた3人でいろんなお話をさせてもらいました。壇先生はたまにカッコつけたことを言ったりするので、それを話半分で聞いてる三浦さんを横でニヤニヤしながら見ていました(笑)。壇先生はとても面白い方で、撮影が終わった今でもお付き合いをさせてもらっています。