撮影/稲澤朝博

実際に起きた事件をベースに、天才と呼ばれたソフトウェア開発者と彼を支えた人たちの闘いの日々を描いた映画『Winny』が、3月10日(金)より公開される。

のちに“Winny事件”と呼ばれたこの事件は、2002年に金子勇氏がユーザー同士で直接データのやり取りができ、簡単にファイルの共有が可能になるソフト“Winny”を開発し、“2ちゃんねる”に公開したことから端を発する。

その後、“Winny”の利用者によって映画や音楽、ゲーム、写真などが違法にアップロードされ、著作権侵害の温床となったことから、金子氏自身は違法アップロードをしていないにも関わらず、著作権法違反幇助の容疑で逮捕。ひとりの天才開発者による技術が、国によって潰された。

結果的に7年の歳月をかけて裁判で闘い、勝訴となるが、金子氏はそれから約1年半後の2013年に42歳という若さでこの世を去る――この映画はそんな金子氏の生き様を伝える。

金子勇役を務めた東出昌大は、膨大な裁判資料にも目を通し、金子氏を支えた人々に直接話を聞くなどして、金子勇像を作り上げたという。「東出昌大っぽさなんて全然なくていい」という姿勢で挑み、体重も18㎏増量。金子勇に少しでも近づこうとした過程を語ってもらった。

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金子さんのエピソードを聞くことで、自分自身で少しずつ肉付けをしていった

撮影/稲澤朝博

――本作は企画から約 4 年の歳月をかけて完成に辿り着いたそうですが、東出さんはどのタイミングから関わっていたのでしょうか。

撮影が2021年の夏で、その年の春ごろにお話をいただきました。そのときに、この事件について自分なりに調べてみたのですが、金子さんは一度、逮捕・拘留をされていて、裁判でも一、二審は有罪で、最後に無罪になるんですね。

だから本当に悪意はなかったのか、“金子勇”という人物を測りかねていました。そういう想いを抱いた上で、ほぼ決定稿に近い準備稿の脚本を読ませていただきました。

ただ今回、クランクインの前に1ヶ月くらいの準備期間があったんです。それだけ潤沢に時間を取れる作品って少ないんですけど、その期間に松本(優作)監督や、脚本を書かれた岸(建太朗)さん、(実際に金子勇の弁護を担当した)壇(俊光)先生とかとお話をする機会を設けていただけたんです。

監督とは喫茶店で二人きりで長らくお話もさせてもらいましたし、そういう皆さんとのお話などを通して「金子さんってもっとこういう人じゃないんですか?」とか、「脚本のこの部分はこういう可能性はないですか?」とか、俳優部から脚本について意見を言うこともありました。

©2023映画「Winny」製作委員会

――金子さんという人物を掘り下げていく中で、脚本に対するアイディアも生まれて来たと。

そうですね。金子さんの実際のお姉さまにもお話を伺うこともできましたし、あとは壇先生を始め、当時の金子さんを知る弁護士さんたちが模擬裁判をやってくださったことも演じる上で大きかったです。

金子さんと実際に関わった方々の中から出てくる金子さんのエピソードを聞くことで、自分自身で少しずつ肉付けをしていったような感覚です。

――実在の人物を演じるのは初めてではないと思うのですが、やはりフィクションの人物とでは準備段階から違ってくるものでしょうか。

実在の人物は資料も多いですしね。例えば、それが織田信長だったとして、実際の信長に会ったことがある人は生きていないですし、写真もないですし、残されているのは皆さんもよく目にする肖像画ぐらいじゃないですか。それでも「信長らしい」とか「らしくない」とかって人は言いますよね(笑)。

それが今回で言えば、生前の金子さんを知る人もたくさんいらっしゃいますし、映像も残っていますし、そういうところから「金子さんらしさ」を少しずつ得ることはしました。

あとは、金子さんの遺品もお借りすることもできたので、そこから見えてくる金子さんらしさもありました。

衛星から送られてくる信号を受信できる腕時計とかは、1990年代後半だった当時では、すごくハイテクで珍しくて高級なものだったんですけど、そういうものを使う金子さんの趣味趣向に触れて「なるほどな」って思ったり。妙に納得したり、嬉しくなったりしながら遺品も使わせていただきました。