検証2:空飛ぶ最強美少女・スーパーガール
杉山:スーパーガールは、スーパーマンの従姉で、ほぼほぼスーパーマンと同じスペックを持っています。
柳田:彼女はエイリアンですよね。
杉山:そうです。惑星クリプトンの出身です。それで惑星クリプトンを照らす太陽は赤くレッド・サンと呼ばれ、
地球の太陽は黄色いのでイエロー・サン。この太陽光線の違いが彼女たちを超人にした、という設定です。
どういう超人スペックかと言うと、「空を飛べる」「無敵の肉体」「怪力」「遠くの音や声が聴きとれるスーパーヒアリング」「目から熱光線・Xーレイ発射」「超低温の息=コールドブレスを吐く」です。
柳田:すごいですね(笑)。ではまず「目からの熱光線」について検証してみましょう。そもそも目というのは、光を受け取る器官であって、光を発射する仕組みはありません。
杉山:確かに、そうですね。
柳田:人間の目には、目の中に入る光の量を調整する”虹彩(こうさい)”という部分があります。この虹彩が光をさえぎるわけですが、もし光を発射する虹彩があるなら、目から光を出すこともできるでしょう。
杉山:なるほど、なるほど。
体脂肪で目から光線!?
柳田:ドラマの中で、熱線でタンカーのチェーンを焼ききるシーンがありました。ああいうことができるとしたら、あの光はレーザー光線だと思われます。
杉山:レーザー光線?
柳田:狭い面積にエネルギーを集中できる光です。チェーンを焼き切ったからには、彼女の虹彩にはレーザーを発射できる機能があるに違いない!
杉山:それはどういう……?
柳田:基本的なルビーレーザーの仕組みはこうです。ネオンの親戚のキセノンというガスにエネルギーを与えて光らせます。
その光をルビーに含まれるクロムという物質が吸収すると、クロムは決まった波長の光を大量に放出します。
ルビーを鏡で挟むと、その大量の光が行き来しているうちに、光の山と谷が揃ってくる。それをビームとして発射します。
これと同じような仕組みが彼女の目にあればいいのです。
杉山:おおお!それがあれば目からレーザー光線が出る!?
柳田:キセノンを光らせるエネルギーはなんでもかまいませんから、たとえば体脂肪を燃やすというのもありかもしれません。
杉山:体脂肪で目から光線……ですか?
柳田:スーパーガールが眼からの光線で焼き切った鎖が直径3㎝で、0.5秒で10㎝の長さが溶けたとすると、4000キロワットぐらいの出力が必要です。
これを出すには、480キロカロリーのエネルギーがいりますから、そのためには体脂肪53g燃やす必要がある。
杉山:たった53gでいいの?
柳田:結構大変ですよ、これ。体脂肪53g、つまり480キロカロリー消費するというのは、彼女の体格だと8㎞走るぐらいの運動量です。
杉山:あー、8km走るのと同じぐらいの運動を、あの一瞬の光線技で!?
柳田:そうです。かなりしんどいですよね。光線発射するとき、ちょっと彼女は力(りき)んでいますけど、あれは体力を使うからではないかなあ。
杉山:コールドブレスはどうですか?
柳田:あれもすごく体力を使うはずです。コールドブレスは、フラッシュのときに説明した断熱圧縮の逆で、断熱冷却だと思います。
杉山:断熱冷却?
柳田:圧縮したガスを放出すると冷たくなるんです。コールドスプレーも、ボンベに圧縮したガスが詰まっていて、それを勢いよく放出することで冷たくなります。あれと同じです。
おそらくスーパーガールは肺に空気をため込んで、圧縮して一気に吐いているんじゃないでしょうか。
杉山:人間コールドスプレー!
柳田:コールドスプレーはスプレー缶自体も冷たくなりますけど、彼女の体も冷えているかもしれない。
杉山:うーん。ヒートビジョン(目からの熱光線)もコールドブレスも大変ですね。だからそれらの技は、乱発しないんだ。やっぱりパンチとかで戦う方が楽かも。
スーパーガールの怪力を発揮しようと思ったら、二の腕の直径が2m40㎝ぐらい必要
柳田:スーパーガールの怪力はすごいですよね。
人間の筋肉であれだけの怪力を発揮しようと思ったら、二の腕の直径が2m40㎝ぐらい必要です。
杉山:えええ??
柳田:第一話で墜落しそうな飛行機を助けますよね。飛行機自体がまだ自力で飛行できたから、あのシチュエーションだと70トンぐらいの重さを両腕で支えていたと考えましょう。
男子重量挙げ(クリーン&ジャーク)の世界記録が263㎏です。その選手の腕の直径を15㎝とすると、スーパーガールの腕は、直径2m40㎝の太さが必要、という話になる。
もちろんあくまでも筋肉の性質が人間と同じだとしたら、ですが。
杉山:目といい腕の筋肉といい、僕らとは別の肉体なんですね。
柳田:間違いなくそうでしょう。普通の女性は20㎏くらいを持ち上げられると思いますが、スーパーガールの場合、70トン。
単純計算で、人間の3500倍の力を発揮できる筋肉ということになります。
僕らには理解できない仕組みなのかもしれません。
杉山:最後に、スーパーガールの飛行について伺いたいのですが。
柳田:それも難問ですよね。彼女はなぜ、あんなふうに空を飛べるのか……。理屈を考えると、僕は行き詰ってしまいます。
あのマントを使ってハンググライダーみたいに滑空していることも考えられるのですが、そうなるとマントがバタバタはためいているのが不思議です。
ハンググライダーの翼は、風をはらんで同じ形を保っているので……。
杉山:なるほど
柳田:すごいジャンプでひとっとび、だったら可能です。途轍もない脚力の持ち主ですから。
杉山:飛んでいるというより、跳んでいる?
柳田:彼女はK1選手50万人分のキック力を持っていると考えられます。
シーズン1の最初のエピソードで、蹴られたエイリアンがぶっとんで、アスファルトの上を壊して滑っていくシーンがありましたよね。
あのエイリアンの体重を100㎏、アスファルトを幅2m、厚さを10㎝と仮定し、10m滑ったとしましょう。
あのアスファルトの破損ぶりからして、エイリアンはマッハ9.7のスピードでアスファルトに叩きつけられたと考えられます。そうなると彼女のキック力は50万トン。
K1の選手で1トンのキック力ですから50万人分です。上向きに45度の角度であのエイリアンを蹴っていたら、1100km先、つまり東京から稚内ぐらいまで蹴り飛ばせたはずですね。
杉山:ははは。スーパーガール怒らせたら本当に怖いな。
柳田:でも、クリプトン星の出身ですからね。やっぱりジャンプしていると考えるのではなく、僕らにはまだ理解できない原理で自由自在に飛翔している……と考えたいですよね。
杉山:そうですね。謎が多い女性には惹かれますよね。ぜひ一度つき合ってみたい。(笑)
いやあ科学って本当に面白いですね! 今日はありがとうございました!
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楽しい講義でした。
とても印象的だったのは、柳田さんがアメコミのヒーローは、空が飛べたらいいな、すごく速く走れたらいいな、というような人間の憧れをストレートに具現化していて、そこがすごい、と。
また機会があれば、柳田さんとは、他のDCヒーロー、ワンダーウーマンやアクアマンについてもお話をうかがいたいですね。
こういう見方で、ヒーロー物を見るとまた違った楽しみ方が味わえますよ。
取材協力:空想科学研究所
ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント