結局、吐夢の原動力って愛なんです
――内田英治監督からはどのようなお話がありましたか。
最初に顔合わせをさせていただいたときに、たぶん、このお話のプロットだったと思うんですけど、それを読んでみてほしいと言われて。そこで僕なりに表情とかをつけながらやってみたら、「君、目つき悪いね。良いね~」と言われました(笑)。
あんまりそんなふうに言われたことがなかったから、「マジっすか?」って返しつつ、そういう視点で僕を見てくれたことがうれしかったです。
それから、吐夢がどんな人なのかということについてたくさん話し合いました。初めに吐夢の軽い設定資料をいただいて、そのあと、脚本を読ませていただいたんですけど、僕の中で「ここは噛み合ってないな、どっちなんだろう?」とか、僕なりに吐夢のことを考えると「こういうことはしないんじゃないか」というような矛盾点やズレを感じるところがあったんです。
なので、その部分を確認したくて、監督に時間を作っていただいて、リモートでお話をさせてもらいました。吐夢の原動力となっていることとか、なんでこういう動きをするのかとか、何が好きなのかとか、そういうところをたくさん聞きました。やっぱり(原作・脚本も手掛ける)監督が生みの親なので。
すり合わせをする中で「そっちのほうがいいかもね」となったこともあったし。そういう確認をして、新たに吐夢を成長させることもできました。
――どのように吐夢というキャラクターを作り上げていきましたか。
結局、吐夢の原動力って愛なんです。愛があるが故の行動をしている。だから「吐夢にとっての愛ってどういうことなんだろう?」と考えながら作っていきました。ここでは言えないのですが、なんでそんなに愛を大事にするようになったのかという理由もいろいろあるんです。
――吐夢は、自分で「ピースフルなストーカー」と言ったりしますよね(笑)。
そこは捉え方次第ですけど(笑)。あれだけ変なことをしているし、見た目も変だし、信用できないですけど、愛着が沸くというか、どこか憎めないところもあるんです。一生懸命だし、あまり人のことを考えられない部分もあるけど、自分なりのアプローチになっているだけで、考えていないわけでもないんですよね。
――現場で共演者の方とコミュニケーションを取りながら作っていく部分もありましたか。
吐夢については、どちらかと言うと、自分の中で作り上げたものを現場に持って行くというパターンでした。それが現場で変わることもありましたけど。
普通のお芝居って、目の前の相手に言葉や想いを届けることを大事にするじゃないですか。けど、本読みのときだったと思うんですけど、監督から「吐夢はそんなこと考えていないから届けなくていい」と言われて。自分の好きなものとか、言いたいことを勝手にしゃべってるだけだと。
だから、相手が「えっ?」って聞き返したくなるくらいのしゃべり方でいいと。「だって吐夢は変なんだもん」と言われました(笑)。
お芝居に限らず、こういうお仕事をするようになってから、何かを届けたいというマインドを常に持っていたので、それを届けないようにすることは、逆に難しいところでもありました。
あと僕、普段は声がデカいじゃないですか(笑)。でも吐夢は小さい声でぼそぼそしゃべるから、それをやろうとすると慣れてないので喉が締まり過ぎてしまって、ゴモゴモして言葉が聴こえなくなってしまうんです。
声を張らず、元気もなく、でもちゃんと聞こえるように話さないといけないのは苦戦しました。ただ徐々に慣れてきて、吐夢になるスイッチを入れると、自然と身体の形とか、中身も吐夢寄りになっていけたので、最後のほうは意識しなくてもできるようになりました。
――吐夢が何を言っているのか、輪花も聴き取れているのかな?という場面も。
ロケでの撮影のとき、吐夢と輪花の距離がわりと離れているのに、吐夢のぼそぼそしたしゃべり方をしていて。「これ、太鳳ちゃんに絶対聞こえてないだろうな」と思っていたら、太鳳ちゃんも「聞こえない」と思いながらお芝居をしていたみたいで(笑)。
けど、そのくらいのほうが「何だ、こいつ?」っていう感じが自然に出せるとも思って、逆にいい距離感になったと思いました。