児童期(小学校時代)
小学校に入ると特に目立ってくるのは、ADHDの多動傾向です。
多動というと「立ち歩く」ですが、実際には、授業中に立ち歩くほどの多動は頻度が低く、年齢的にも小学校2年生くらいで見られなくなります。これに対して、貧乏ゆすり、椅子をガタガタさせる、いつも体を動かす、といった軽症の多動は、児童期から思春期、時には成人期まで持続します
ASDの児童期には、対人関係の問題が次第にあらわれやすくなります。
一般的には子どもは小学校の集団生活において、「常識的」な人間関係を身につけていきますが、ASDの子どもはこのプロセスがあまり得意ではなく、相手の感情を推しはかることが不得手。集団に仲間入りできず、しばしば攻撃、いじめの対象になってしまうことも。
発達障害と似ている愛着障害とは?
発達障害ではありませんが、虐待や育児放棄などを受け、安心・安全の感情が満たされずに育った子どもにみられるのが「愛着障害」。幼児期以降にコミュニケーションや自分の精神的なコントロールに問題が生じるケースがあり、「反応性アタッチメント障害」と「脱抑制型対人交流障害」の2つがあります。
「反応性アタッチメント障害」では以下のような行動が見られます。
・喜怒哀楽の感情表現、特に嬉しさや楽しさの表現が少ない
・辛いとき、甘えたいときに素直に甘えられない
・他人に無関心で、用心深く、信頼しようとしない
・引きこもる、隅っこでおとなしく目立たないようにする
これは一見すると、ASDの孤立した行動と非常に似ています。
一方「脱抑制型対人交流障害」では、次のような反応性とは真逆の行動が見られます。
・大げさにはしゃぐ
・初めての場所でも怖がらずに行ってしまう
・初対面の見知らぬ大人にも無警戒に近づき、過剰に馴れ馴れしい言葉や態度で接し、ためらいなくついて行ってしまう
これらはADHDで多く見られる行動に類似しています。
さらに発達障害は虐待とも結びつきやすいため、「生来の発達障害に、環境由来の愛着障害が加わっている」というケースも少なくないとのこと。
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こうした子どもの特性は成長とともに少しずつ変化します。それゆえ専門家でも捉え難い部分もありますが、この時期に理解や適切なサポートが得られれば、成長のどこかの地点で社会との折り合いを見つけていくこともできるようになります。
著者:岩波 明
1959年、横浜市生まれ。東京大学医学部医学科卒業。専門は「精神生理学」。多くの臨床経験からリアリティに溢れた症例を紹介、現代社会の様々な現象に鋭く切り込み、多数のベストセラーを創出している。著書に『発達障害』(文春新書)、『精神鑑定はなぜ間違えるのか?』(光文社新書)、『発達障害という才能』(SB新書)等がある。