高額療養費制度の限界
高額療養費制度は頼もしい制度ですが、いくつかの制約があります。
ひと月単位の計算
高額の医療費が月をまたいで発生した場合には上限額がリセットされるため、月をまたいで短期間に複数回の高額な治療が必要になるケースでは、自己負担額が増える可能性があります。
そのため、もし入院する日を決められる場合は、なるべく月初に入院してその月中に退院できた方が負担額を抑えることができます。
対象外の費用
高額療養費制度は医療費の自己負担分にのみ適用されますが、入院時の食事負担や差額ベッド代、先進医療、交通費、付き添い人の費用、収入減少による生活費の補填など、直接的な医療費以外の出費には対応していません。
これらの費用が重なると、家計に大きな負担がかかる可能性があります。
民間の医療保険の役割
民間の医療保険は、こうした公的制度ではカバーしきれない部分を補う役割を果たします。
例えば、入院時の差額ベッド代や、先進医療を受ける際の費用をカバーする特約がついているものがあります。
また、入院日額保障の保険では、入院期間中の収入減少や日常生活のサポート費用を補うことができます。
さらに、がん保険や特定疾病保険といった特化型の医療保険では、高額療養費制度ではカバーされない先進医療や治療薬の費用、長期療養による生活費の補填など、特定のリスクに対応する保障が提供されます。
こうした保険に加入することで、治療中も生活費を確保し、経済的な不安を軽減することが可能です。
個々のニーズと家計状況に合わせた選択が重要
最終的に、民間の医療保険が必要かどうかは、個々の生活状況や貯蓄も含めた家計状況、リスクに対する考え方によります。
若くて健康な人であれば、高額療養費制度のみで十分と感じるかもしれません。
一方、家族がいる場合や、持病がある場合、または収入が高く上限額が上がる場合などは、民間保険を活用することで、より安心した生活を送れる可能性があります。
また、マイナンバーカードを保険証として利用登録していない場合、高額療養費制度の申請や手続きには時間がかかる場合があり、その間に一時的に多額の医療費を立て替える必要があることもあります。
これに対して、民間保険は迅速に給付金が支払われることが多く、家計への一時的な負担を軽減する効果も期待できます。
「高額療養費制度があるから民間の医療保険がいらない」という考え方には一理ありますが、それだけではカバーしきれないリスクや費用が存在します。
公的制度と民間保険は、お互いに補い合う関係にあります。
自分や家族の健康状態、ライフスタイル、家計状況を踏まえ、どのようなリスクに備えるべきかを慎重に考えた上で、最適な保険プランを選択することが重要です。
【執筆者プロフィール】
田端 沙織(たばた さおり)
キッズ・マネー・ステーション認定講師/ファイナンシャルプランナー
証券・運用会社で10年超の勤務経験を活かし、ファイナンシャルプランナー・金融教育家として「正しく・分かりやすく」お金のことや資産運用について伝える講座や相談業務を行っています。得意分野は資産運用。小学生2人と保育園児1人の3児を絶賛子育て中。