アニメ制作の裏側を見て、テンションが上がった瞬間

――一アニメファンとして、アニメ制作の裏側を見て、テンションが上がった瞬間もあったんじゃないですか?

「アニメがどんな風に作られていくのか? そんな、自分がずっと気になっていたり、調べたりしていたことが目の前で起きていたので、やっぱり、すごくテンションが上がりました。

それこそ、僕以外の声優さんたちが、待機している僕の前でセリフのかけ合いをしていた時なんて、眼をつぶれはアニメなんですよ!」

――ああ!

「その光景を目の当たりにした時に、僕はいちばん泣きそうになりました。ああ、自分はいまその場所にいるんだと思ったし、声優さんたちってやっぱりスゴいなと改めて思いましたから。

それに、作画をしている場所を見学させていた時も、自分が普段純粋の楽しんで観させてもらっているアニメはこんなにたくさんの人たちの手によって作られているんだなということが分かって、新鮮な驚きがありましたね」

――アニメの観方が変わりそうですね。

「いや、作っている人たちのことを大事に思いながら観るというのはたぶん違うと思うんですよ。

僕は大変そうなんだなと思われながら見られるのは嫌なので、これからも純粋に楽しみながら観させてもらいますけど、アニメを作っている人たちの世界を肌で感じることができたのはよかったですね。

アニメの仕事をしたいということではないんですけど、僕はアニメの仕事にも興味があって。知りたいことが単純にいっぱいあったから、すごくテンションが上がりました」

演じる際には実写版を意識したのか?

――『君の膵臓をたべたい』は昨年実写版も大ヒットしましたが、演じる際には実写版を意識しました?

「僕、敢えて観なかったんですよね。観たら、余計緊張しそうな気がしたから」

――緊張?

「原作自体がすでに素敵な評価を得ていたし、実写版の映画の評価もすごく高かったですよね。

でも、だからこそ、自分は今回そことはまったく関係ないところでやらなきゃいけないと思っていたんです。観たら、やっぱり実写版の影響を受けちゃいますしね。

ただ僕は、現場によってオリジナルや以前に作られた同じ原作がベースの作品を観る場合と観ない場合があって。

今回は観ないという選択をしましたが、観ていたら「“僕”」のキャラクターがどう変わっていたのかちょっと気になります(笑)」

――高杉さんはそもそも、小説や漫画の実写化やアニメ化については肯定的な考えをお持ちなんですか?

「中学生の時は実写化に違和感がありました。アニメ化でさえ気にさわるようなところがあったんですけど、いまはその感覚がないので、小説や漫画の実写化やアニメ化に対して異を唱えている人たちの気持ちが全然分からなくて。

僕自身がそういう作品に出演するようになったからかもしれないけど、作品やキャラクターに対する人それぞれの解釈があっていいんじゃないかなと思うんです」

アニメ版『君の膵臓をたべたい』ならではの見どころ

――それでは、アニメ版の『君の膵臓をたべたい』ならではの、原作小説や実写版にはない魅力や見どころは何だと思います?

「アニメは光の加減を繊細に調整できるので、映像がすごく美しいんですよね。

小説を読んで“本当に美しい世界なんだろうな”と想像していたものがちゃんと具現化されていたし、逆にアニメならではの距離感で桜良と「“僕”」の関係が儚く見えたり、小説を読んだ時には想像しなかったアニメではこういう表現になるんだ!?

という驚きもあって。アニメのキャラクターだからこそできる感情の描き方もしているので、そこを楽しんで欲しいですね」

――それにしても、いい企画、いい監督との仕事が続いていますね。

松居大悟監督の『君が君で君だ』ではクズっぷりが最高でしたし、入江悠監督の『ギャングース』(11月23日公開)では犯罪者をターゲットに窃盗、強盗を繰り返すロン毛のアウトロー少年を演じられているというので、楽しみです。

「自分は単純に、楽しい演技、楽しい仕事ができたらいいなと思いながら必死にやってるだけなんですけど、そう言っていただけるのは嬉しいですね。

今後もこれまで通り、いい監督、いいスタッフさん、いいキャストのみなさんと出会っていけたらいいなと思います」

普段からあまり感動したり、興奮したりしないようにしている。ブレたくないから

――以前の取材で「普段からあまり感動したり、興奮したりしないようにしている。ブレたくないから」と言われていたのが、すごく印象に残っています。

「もともとそんなに感情の起伏が激しい性格ではないんですけど、そうですね、意識してしないようにしています」

――それはなぜですか。

「単純に、そこにエネルギーを使いたくないんだと思います。役ではそこがたくさん出たらいいなと思うんですけど、素の自分がそれをやるのは恥ずかしいとうのもありますね(笑)」

――その話を聞いた時に、「食事の内容や変化でイライラしないように」同じものをルーティーンで食べ続けるイチロー選手に似ているなと思いました。

「イチロー選手もそうなんですね。でも、確かに最高のパフォーマンスができるように、という意味では同じかもしれないです」

初めて挑戦した“声”の仕事の喜びと苦悩を、その世界が大好きな人ならではの言葉で語ってくれた高杉さん。

その素顔は、スマートで柔らかなスタンスや表情とは違って、けっこう頑固なのかもしれないし、その常に「ブレない」ことを意識した生き方は『君の膵臓をたべたい』の「“僕”」とも重なるような気がする。

アニメの「“僕”」と“声”で共演し、可能性をさらに広げた高杉真宙は、今度はどんなパフォーマンスを見せてくれるのか? 今後の活躍がますます楽しみだ。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。