ライバルは、魚屋でも寿司屋でもない

「松本さんは、普段は穏やかだが、実はものすごく負けず嫌い。自分が『こんな寿司屋でこんなマグロを食って…』という話をすると内心悔しいらしく、次に行った時には凄いマグロを買ってくる。それを繰り返した結果、こんな魚屋になってしまった(笑)。
おそらく、松本さん以上にいい魚を揃える魚屋は、魚屋はおろか、お寿司屋さんでもないんじゃないか」。

単にいい魚を売るだけではない。それを最もおいしい状態で客に食べさせるための手間を惜しまない。そうしないと、「買ってきた魚に対して失礼」だという。

魚の最もおいしい部分が残るよう、皮と身のギリギリのところで丁寧に皮を引き、子どもでも食べやすいように小骨を1本1本抜き取る。そういった作業を全部済ませてから売る。
いろいろな寿司屋の仕事を間近に見てきた早川さんだが、「あれだけきれいに銀皮を残せる人は、お寿司屋さんでもそうはいない」。

切り口も美しく、オーラを放つマグロ

 

実食!「千葉・竹岡のヒゲダラ」のフライ

自家製タルタルソースを添えて。

「ヒゲダラ」は、「タラ」とは別種の魚。一般的な知名度は低いが、そのおいしさを世に知らしめたい魚だという。煮ても焼いてもいいが、いちばんおいしいのが「フライ」だそうだ。

「塩・コショウをして、ソースじゃなくて、タルタルソースがいいですね。塩で余分な水分を抜いてます。(魚が)汗をかくので、その具合を見て加減します」

食べてみると、中まで適度にやわらかく、口の中でホロッと均一に身がほぐれる。ほどよく脂がのっており、わずかに塩気を感じる程度に抑えられた塩分によって、品のある旨味が引き出されている。それがコクをまとった軽い衣とよく合う。

「上品でクセがなくて、何に使ってもおいしい。タラのような臭いがなく、のどを通った後に、強い旨味がぐっときます」

 

「北海道・藻琴(もこと)湖のシジミ」のみそ汁

「寒い時季にだけ獲れる、東京ではほとんど出回らないシジミです。優先的にもらっています」

藻琴湖のシジミの大きさは、普通のシジミよりもだいぶ大きい。一見、アサリのようだ。その強い旨味のせいで、鍋の水が真っ白に濁るという。

汁を口に含んでみると、濃厚な旨味が体じゅうに染み渡るようだ。余計な味付けは不要だろう。身はヒラリとしていて清楚な雰囲気。松本さんの魚選びの決め手のひとつとなるのが、見た目の「美しさ」だというのも頷ける。